
本記事の監修弁護士:菅原 啓人
2021年1月弁護士登録(現在、東京弁護士会所属)。
都内の法律事務所にて、交通事故案件を中心に、労働事件、不貞、離婚事件等の一般民事事件を担当。
2024年10月ライトプレイス法律事務所に入所。
趣味は、野球観戦、映画鑑賞、旅行、スイーツ巡り等。
交通事故で打撲を負った場合、「たいした怪我ではないから大ごとにする必要はない」と考えがちですが、たとえ打撲でも法的には正当な慰謝料を請求する権利があります。
打撲の慰謝料は通院期間などを基に算出され、自賠責基準では1日あたり4,300円、弁護士基準では1日あたり6,700円相当(※日額での固定計算ではなく、通院期間・日数に応じて決まる)の相場があり、基準によって金額は大きく異なります。
打撲は見た目に分かりにくく、レントゲンにも映らないことが多いため、保険会社は早期の治療終了を促しがちです。しかし、痛みや日常生活への影響は軽視できません。適切な通院、痛みの記録、生活支障の把握など、証拠を蓄積することが、慰謝料請求に繋がります。
さらに、神経障害など後遺症が残る可能性もあるため、症状固定までしっかり治療を継続することが重要です。保険会社との話し合いが難航する場合や、提示金額が適正か疑問に感じる場合には、交通事故案件に詳しい弁護士への相談を検討しましょう。弁護士が交渉することで、慰謝料の算定が弁護士基準に引き上げられ、結果的に受け取る金額が大幅に増額されるケースも少なくありません。
打撲は「軽い怪我」と決めつけず、法的に正当な補償を受けるための準備と行動を心がけることが、あなたの権利を守る第一歩となります。
打撲はなぜ軽視されがちなのか?
打撲は、皮膚の表面には目立つ傷がないものの、内部の筋肉や血管が損傷して痛みや腫れを生じる怪我です。交通事故の衝撃で身体の一部をぶつけた際に発生し、特に車内での衝突や転倒時に多く見られます。
ただし、骨折やむち打ちなどと異なり、レントゲンで異常が見えにくく、見た目にも大きな変化がないため、「軽傷」とみなされがちです。また、痛みの訴えは本人の主観に頼る部分が多いため、保険会社がその深刻さを認識しづらく、通院期間の短さから慰謝料を低く見積もられる傾向があります。
それでも、日常生活や仕事に支障をきたすレベルの痛みや可動域制限が出ることもあり、適切な医療と対応が必要です。軽視されがちな打撲だからこそ、しっかりと症状を訴え、治療に取り組むことが重要です。
打撲でも慰謝料はもらえる?
交通事故で受けた打撲でも、法的には通院日数や期間に応じて慰謝料を請求することができます。慰謝料を計算する際には、次の3つの基準が用いられます。
- 自賠責基準:1日あたり4,300円(実通院日数×2 または治療期間の少ない方)
- 任意保険基準:保険会社ごとの内部基準(非公開ですが、概ね4,000〜5,000円)
- 弁護士基準:日弁連の損害賠償算定基準。最も高額で、通院3か月で約53万円が相場です。
例えば、3か月の通院で実通院日数が45日程度の場合、
- 自賠責基準:約25万円
- 弁護士基準:約53万円
と、基準によって約2倍の差が生じることもあります。
保険会社は一般に自賠責または任意保険基準で提示してくるため、納得できる慰謝料を得たい場合は弁護士に依頼して弁護士基準での交渉を行うのが有効です。
慰謝料の計算方法は以下の記事でも解説しております。併せてお読みください。

治療を続けるうえで大切なこと
打撲は外見に出にくいため、「もう治ったのでは?」と誤解されやすいですが、痛みや腫れが続いている場合は、自己判断で治療をやめるのではなく、医師の指示に従って継続することが重要です。
治療継続のポイント
以下の情報は、慰謝料請求の際に重要な証拠になります。
- 医師の診断書や通院証明を取得する
- 症状の変化や痛みの強さを日記などに記録する
- 写真で腫れやあざの経過を残す
- 家事や仕事に支障が出ている場合、その内容をメモしておく
打撲でも後遺症が残ることがある
打撲でも、神経や筋肉の深部まで損傷している場合、痛みやしびれが慢性的に残ることがあります。これが「後遺症」と認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求も可能です。全ての方に当てはまるわけではないですが、こうした可能性があることを知っておくことは大切です。
後遺障害の認定に必要なこと
- 継続的な通院記録
- MRIなどの画像診断結果
- 後遺障害診断書(医師作成)
- 日常生活への支障を説明する資料
認定には専門的な準備が必要なため、弁護士と連携して進めるのがおすすめです。
保険会社との交渉で注意すべきこと
保険会社は打撲を軽い怪我と判断し、通院期間を短縮させたり、慰謝料を低く提示することがあります。
- 「もう治療は不要です」
- 「痛みは主観的で証明できません」
- 「高齢だから治りが遅いのでは?」
↓
- 医師の診断書を根拠に主張する
- 写真や記録などの客観的な証拠を示す
- 無理に示談せず、納得できなければ弁護士に相談する
弁護士に相談すべきタイミングとは?
次のような状況では、弁護士に相談することで交渉を有利に進められる可能性が高いです。
「打撲程度で弁護士に相談するのは大袈裟?」と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
以下の場合は弁護士に依頼するのをおすすめします。
弁護士に相談するおすすめのケース
- 保険会社から治療終了を強く求められている
- 慰謝料の金額があまりにも低い
- 症状が長引いていて不安がある
- 打撲後、しびれや機能障害が出てきた
費用については、弁護士費用特約が使えるケースも多く、実質的な負担がない場合が多いです。
事故直後にやっておくべきこと
交通事故で打撲を負った直後は、事故直後の冷静な行動がその後の請求に大きく影響します。
パニックになりがちですが、できる範囲で以下のことを心がけましょう。
- 警察に通報して事故証明を取る
- 相手の氏名、住所、保険情報を確認する
- 現場の状況や車両の損傷をスマホで撮影する
- すぐに医療機関を受診し診断書をもらう
- 自身が加入している保険会社に事故を報告する
上記のうち、特に重要なのは警察への通報と医師の診察を受けることです。事故直後は痛みがなく、怪我をしていないと思っても後から症状が出ることもあります。事故直後に診察を受けておかず、数日経過してからの受診の場合、相手の保険会社から事故と怪我との因果関係を疑われてしまい、最悪の場合慰謝料等の請求ができなくなる可能性もあります。
医師の診断がないと慰謝料の対象にならないため、「大したことはない」と思っても受診は必須です。
事故直後にやってはいけない対応については以下の記事にてまとめております。ぜひ御覧ください。

打撲と他の外傷との違い
打撲は外からの衝撃によって筋肉・脂肪組織・血管などの軟部組織が損傷を受ける怪我で、皮膚に明らかな外傷がないことが多く、外見では異常がわかりにくいという特徴があります。そのため、「見た目が軽そう」という理由で周囲や保険会社に軽視されがちですが、内部で深刻な損傷を負っていることもあります。
他の外傷との主な違いとしては以下のようなものがあります
- むち打ち:自動車事故の衝撃などで首が前後に大きくしなることで、首の筋肉や靭帯、神経に損傷が生じる。特徴的なのは、事故直後ではなく数日後に症状(首の痛み、可動制限、頭痛、吐き気など)が現れることも多い点。
- 骨折:骨の連続性が断たれる状態であり、レントゲンやCTなどの画像検査で明確に確認できる。一方で、骨折と診断されず打撲とされた場合でも、骨に微細なひび(不全骨折)が入っているケースもあり、痛みが強く長期化することもあります。
つまり、打撲と診断されても痛みが続く場合には、初期診断だけで安心せず、必要に応じてMRIや追加の検査を受けるなど、慎重な経過観察と対応が必要です。
結論:打撲も適正な補償を受けるべき怪我です
交通事故による打撲は、外見上は軽く見えがちですが、痛みが長引いたり、後遺症が残ることもある深刻な怪我です。レントゲンに異常が映らず、見た目にわかりにくい分、保険会社は治療の打ち切りや低額な慰謝料を提示してくる傾向があります。
保険会社の提示額が低すぎる、納得がいかないと感じる場合には、早い段階で交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、慰謝料算定を弁護士基準で主張し、後遺障害等級認定のサポートも受けられるなど、適正な補償を得る可能性が大きく高まります。
打撲は「たかが打撲」と自己判断せず、医師と専門家の力を借りて、将来の後悔を防ぐ行動を取ることが大切です。
とはいえ、自分の怪我の状態がどれくらいの慰謝料になるのか、わからない方も多いかと思います。
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