
本記事の監修弁護士:菅原 啓人
2021年1月弁護士登録(現在、東京弁護士会所属)。
都内の法律事務所にて、交通事故案件を中心に、労働事件、不貞、離婚事件等の一般民事事件を担当。
2024年10月ライトプレイス法律事務所に入所。
趣味は、野球観戦、映画鑑賞、旅行、スイーツ巡り等。
信号待ちで停車中に後方から追突される事故は、典型的な過失割合10対0の「もらい事故」です。このような事故では、被害者に過失がないため、発生した損害の全額を加害者側に請求できます。そして、慰謝料の算定基準には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があり、弁護士基準が最も高額となります。
信号待ち追突事故の場合、被害者側の保険会社は示談交渉を代行できないため、適正な慰謝料を得るには弁護士への相談が効果的です。むちうち症などの後遺障害が残った場合は後遺障害等級認定も重要で、認定を受けた場合、等級に応じた追加の慰謝料請求が可能です。慰謝料以外にも治療費、休業損害、交通費などの実費も請求できるため、すべての損害項目を漏れなく請求することが大切です。
今回の記事では、信号待ち追突事故における適正な慰謝料請求の方法と注意点について詳しく解説します。
信号待ち追突事故の過失割合が10対0になる理由
信号待ちで停車中に後方から追突される事故は、交通事故の中でも最も典型的な「もらい事故」と言えます。この場合、被害者側には全く過失がなく、過失割合は10対0となるのが一般的です。
追突事故における過失割合の基本的な考え方
道路交通法上、すべてのドライバーには「前方注視義務」と「車間距離保持義務」があります。信号待ちで停車中の車両に追突するということは、これらの基本的な義務を怠った結果であり、追突した側に10割の過失があるとされています。
追突事故では、多くのケースで追突した車両の過失割合が10、追突された車両の過失割合が0になります。これは、前方車両は道路交通法をきちんと守り走行または停止していただけであり、後続車が十分な車間距離を取っていなかったり、前方不注意により衝突事故が発生したといえるからです。
慰謝料の種類と計算基準
信号待ち追突事故での慰謝料には、主に以下の種類があります。
慰謝料の主な種類
- 入通院慰謝料:事故によるケガの治療のために入院・通院した期間に対して支払われる慰謝料
- 後遺障害慰謝料:事故により後遺症が残った場合に支払われる慰謝料
- 死亡慰謝料:事故により被害者が死亡した場合に遺族に支払われる慰謝料
慰謝料の3つの計算基準
慰謝料の計算方法には、3つの基準があります。自賠責保険基準は、自賠責保険が定める慰謝料の計算基準です。交通事故被害者に対する最低限の補償を目的としたもので、これら3つの基準の中では最も低い金額となります。任意保険基準は、加害者が加入している自動車保険の保険会社が定める慰謝料の計算基準です。各社ともに計算基準の具体的な内容は公開しておらず、厳密な金額感は会社によっても異なるのですが、基本的には自賠責保険基準とほぼ同じ~多少プラスαした程度の金額になると言われています。
3つ目の基準は「弁護士基準(裁判基準)」と呼ばれるもので、裁判所の裁判例を踏まえて、適切な慰謝料額となるように作られた基準です。最も高額な慰謝料の算定基準となります。
信号待ちでの追突事故の慰謝料相場
信号待ち追突事故でよく見られるむちうち症の場合の慰謝料相場を見ていきましょう。
むちうち症の入通院慰謝料相場
むちうちの入通院慰謝料は、19万円から89万円ほどが相場で、詳しい金額は治療期間によって様々です。具体的な相場は以下の通りです。
- 通院1ヶ月:約19万円
- 通院3ヶ月:約53万円
- 通院6ヶ月:約89万円
これらは弁護士基準での相場であり、自賠責基準や任意保険基準ではさらに低くなります。
後遺障害が残った場合の慰謝料
むちうち症であっても、後遺障害の等級認定を受けられる場合があり、その場合の等級は12級または14級となることが多いです。後遺障害としてこれらの等級認定を受けると、入通院慰謝料とは別に後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害等級の認定を受けた場合、14級9号で110万円、後遺障害12級13号で290万円の後遺障害慰謝料を追加請求できるため、半年程度通院した場合を想定すると慰謝料のみで示談金相場は200万円~400万円程度になります。
信号待ちでの追突事故で請求可能な損害項目
慰謝料以外にも、様々な損害を請求することが可能です。
治療費
事故の治療に要した医療費や薬代などが含まれます。原則として全額請求可能です。 基本的には、加害者が加入している任意保険会社が事前に病院に対して治療費全額支払っていることが多く、示談時に改めて治療費を請求することは少ないですが、何らかの理由により手出しを余儀なくされた治療費については別途請求可能です。
休業損害
休業損害とは、交通事故で負った怪我の治療や療養で仕事を休んだことによる減収のことです。休業損害は1日当たりの基礎収入×休業日数で計算されますが、慰謝料と同様に休業損害を算出するには3つの基準があります。また、休業損害を請求できるのは、事故の怪我による休業のために収入減少があった場合に限られます。しかし、収入を得ていない専業主婦(夫)であっても、事故の怪我により家事が支障が生じた場合であれば、休業損害を請求できる可能性があります。
休業損害については、以下の記事でも詳しく解説しております。

逸失利益
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ将来得られたであろう収入を指し、後遺障害が認められた場合に請求できる「後遺障害逸失利益」と、被害者が事故により亡くなってしまった場合に請求できる「死亡逸失利益」の2種類に分けられます。
付添費
交通事故で怪我を負った場合、入院生活や自宅で生活を送る上で誰かの付き添いが必要になることが少なくありません。このような場合には、治療費や慰謝料とは別に、付添いにかかる費用を相手方に請求することができる可能性があります。
交通費
通院に要した交通費も請求可能な項目です。タクシーを利用した場合でも、医師が必要と症状に照らしてタクシー利用の必要性があると認めれば請求できることがあります。
信号待ち時の追突事故で慰謝料請求する際に注意すること
信号待ち追突事故で適正な慰謝料を受け取るための注意点をまとめます。
被害者の保険会社が示談交渉できない
過失割合10対0の交通事故の示談交渉は、被害者自身が加入する保険会社が代行することができません。任意保険の示談代行サービスは、被害者が加害者にも賠償金を支払うことが前提となっています。しかし、被害者の過失割合がゼロの場合、被害者は加害者にお金を支払う必要がなく、被害者の任意保険会社も、示談交渉について金銭的な利害関係がないため、示談交渉を代行することは、弁護士法72条の非弁活動の禁止に触れることになるのです。
つまり、10対0の追突事故では、被害者自身で加害者側の保険会社と交渉するか、弁護士に依頼する必要があります。
物損事故と人身事故の区別
ケガがない物損事故では、車両の修理代や破損した積載物の補償などが受けられますが、慰謝料は原則として請求できません。事故直後はケガがないと思っていても、後から症状が表れてくることもあるので、痛みや違和感があれば病院で診察を受けるべきです。警察による実況見分で物損事故(物件事故)と取り扱われても、病院で警察に提出するための診断書を取得し、警察にする等の必要な手続きを行えば、後から人身事故に切り替えることもできます。
慰謝料を請求するにあたって人身事故への切り替えが必須というわけではありませんが、物件事故扱いの場合はケガが軽いと認定されたり、後遺障害等級認定において不利になることがあるため、人身事故扱いにした方が良いといえます。
以下の記事では、物損事故の場合の慰謝料請求について解説しています。

因果関係の立証
事故状況(クリープ現象による衝突など)から、交通事故のケガの因果関係を否定されてしまうことや、治療費の支払いを早期に打ち切られてしまう場合があります。特にむちうち症などの外見からわかりにくい怪我の場合、事故との因果関係を否定される場合があります。早期に医療機関を受診し、医師の診断を受けることが重要です。
弁護士費用特約の活用
自分の加入している自動車保険に弁護士費用特約の契約があれば、契約で設定される上限額までの弁護士費用を保険会社に負担してもらうことができます。
弁護士費用特約は、被害者の過失が100%でない限り使用可能なため、この特約があれば弁護士への依頼をためらう必要はありません。
弁護士に依頼するメリット
適正な過失割合の維持
交通事故の過失割合は話し合いの中で決まっていくものです。「被害者が急ブレーキをかけた」「信号の色の証言は本当か」などと主張され、途中から過失割合が争われる可能性もあります。過失割合10対0の事故では、被害者が受け取る慰謝料・示談金に対して「過失相殺」が適用されません。よって、10対0でなくなることは被害者にとってデメリットで、相手方にとって大きなメリットです。
弁護士に依頼することで、このような過失割合の変更を防ぎ、10対0の立場を守ることができます。
慰謝料等の損害額増額の可能性
交通事故を弁護士に依頼すると、慰謝料やその他示談項目はすべて弁護士基準を用いて計算され、算出された金額で相手方保険会社と交渉していきます。その結果、示談金が増額する可能性が高まります。
実際に、弁護士による交渉の結果、休業損害、慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益で増額を実現した事例は多くあります。
適切な後遺障害等級認定のサポート
後遺障害等級の認定結果によって慰謝料額は大きく変わります。弁護士は後遺障害等級認定の申請手続きもサポートしてくれるため、適切な等級認定を受けられる可能性が高まります。
信号待ちでの追突事故後の対応の流れ
信号待ち追突事故に遭った後の適切な対応の流れを説明します。
事故直後の対応
- 安全な場所に車を移動させる
- 警察に通報する
- 相手の連絡先や保険情報を確認する
- 目撃者がいれば連絡先を聞いておく
- 可能であれば事故現場の写真を撮影する
医療機関の受診
事故後は速やかに医療機関を受診しましょう。軽微な症状でも必ず受診することが重要です。特にむちうち症は事故直後より翌日以降に症状が現れることが多いため注意が必要です。
弁護士への相談
前述のとおり、過失割合が10:0(相手:ご自身)の場合は、ご自身で契約している任意保険会社が示談交渉できないなどの注意点があります。追突事故でしっかり慰謝料を請求するなら、弁護士に依頼するとよいでしょう。
早い段階で弁護士に相談することで、その後の対応がスムーズになります。弊所では、LINEで何回でもいつまでも無料でご相談いただけます。追突されて困っていたら、まずはLINEでご相談ください。
後遺障害等級認定の申請
治療が終了し、症状が固定した後も症状が残る場合は、後遺障害等級認定の申請を検討しましょう。
交通事故によって負ったケガが、治療を続けてもこれ以上良くならず症状固定と診断された場合は、後遺障等級認定を申請することができます。後遺障害等級第1~14級の等級に認定されると、等級に応じた後遺障害慰謝料を新たに請求できます。

まとめ:信号待ちで追突された場合の賠償請求のポイント
信号待ちで停車中に追突された場合、過失割合は原則として10対0となります。このような「もらい事故」では、被害者自身の保険会社は示談交渉を代行できないため、弁護士に相談することが重要です。
慰謝料の算定基準には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があり、弁護士基準が最も高額になります。むちうち症の場合、通院期間や後遺障害の有無によって慰謝料額は大きく変わります。
弁護士に依頼することで、適正な過失割合の維持、慰謝料の増額、後遺障害等級認定のサポートなど、様々なメリットがあります。また、自動車保険の弁護士費用特約を利用すれば、弁護士費用の負担を軽減できます。
信号待ち追突事故で適正な賠償を受けるためには、事故直後の適切な対応、速やかな医療機関の受診、早期の弁護士相談が重要なポイントとなります。
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