交通事故における「運行供用者責任」とは何かをわかりやすく解説

交通事故における「運行供用者責任」とは何かをわかりやすく解説

先日横断歩道を歩いていた際に、自動車にはねられてケガをしてしまいました。手のしびれや傷が残ってしまっており、十分な補償をしてもらいたいのですが、加害者は勤務先の会社に無断で社用車を運転して事故を起こしたとのことでした。加害者からのみでは十分な補償が受けられないのでは無いかと不安です。

交通事故に遭われてしまい非常にご不安な事かと思います。会社の管理する自動車で事故を起こしたケースでは、会社に対し運行供用者責任を追及できる可能性があります。

今回は、運行供用者責任について、使用者責任などの違いや、そもそも運行供用者責任とは何なのかという点について分りやすく解説します。

この記事の監修弁護士:浅尾 耕平
2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。
2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。交通事故、労働災害をはじめ多様な事件に従事。

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目次

運行供用者責任とは

運行供用者責任とは

運行供用者責任とは、簡単に説明すると、交通事故の加害者だけで無く、運行供用者も損害賠償責任を負うとするものです

運行供用者責任は、自動車損害賠償保障法第3条に規定されています。自動車損害賠償保障法には、以下の定めが置かれています。

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

(引用元:自動車損害賠償保障法)

これだけではわかりにくいので、ポイントに絞ってご説明すると、以下の2点を押さえておきましょう。

  • 運行供用者責任とは、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)は、交通事故の加害者とともに賠償責任を負う
  • 運行供用者責任は、「他人の生命又は身体を害したとき」にのみ認められるので、人身事故の場合に限られる

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運行供用者責任が定められた目的

運行供用者責任はどのような場合に役立つ?

ここからは、運行供用者責任がどのような目的で定められているのかについて解説します。

前提:不法行為による損害賠償請求

交通事故の被害者は、加害者に対し不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求権を有しています。そのため、被害者は運行供用者に対し損害賠償請求をしなくても、加害者に対し損害賠償請求が可能です。

しかし、加害者に対しては請求が可能であったとしても、加害者の資力が乏しいケースなどでは被害者が十分な賠償を受けることが難しくなってしまうおそれがあります。また、不法行為に基づく損害賠償請求は、「故意又は過失」が加害者に認められることや、故意・過失と交通事故、交通事故と損害の因果関係など様々な要件について被害者が立証する必要があります。

こうした立証責任の負担は被害者にとっては重いものであるといえます。

運行供用者責任の法的な位置づけ

そこで、運行供用者責任は、前述の不法行為責任の特則として、被害者保護の観点から制定されました

運行供用者責任には、不法行為責任と比較した場合に次のような特徴があります。

  • 被害者が加害者の過失の立証責任を負わない
  • 運行供用者にも責任追及が可能となっている

このように、運行供用者責任は、交通事故時に運転していた人だけでなく、運行供用者とされる人にまで交通事故の責任範囲の対象とし、できる限り被害者を保護するために規定されている制度といえます。

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運行供用者責任の要件

運行供用者責任の要件

運行供用者責任は、どのような場合でも認められるものではありません。ここからは運行供用者責任が認められるための要件について解説します。

1.「運行供用者」に該当していること

運行供用者責任に基づいて責任追及ができる相手方は「運行供用者」である必要があります

これは、冒頭で少しご説明した「自己のために自動車を運行の用に供する者」を意味します。

「自己のために運行の用に供する者」(運行供用者)について

その他にはどういった者が運行供用者に該当するのでしょうか。

この点については、最高裁判所第三小法廷昭和43年9月24日は以下の様に判示しています。

自賠法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味する

最高裁判所第三小法廷昭和43年9月24日

つまり、①自動車の使用についての支配権を有する者、②使用により享受する利益が自己に帰属する者の両方に該当する者は運行供用者に該当するとしているのです。

なお、①の自動車の使用についての支配権については運行支配、②の利益を運行利益と呼んでいます。

そのため、自動車を所有している者や保有している者以外の者に対して、運行供用者責任を追及する際には、その人に運行支配と運行利益が認められるかを検討することになります。

運行支配

運行支配とは、かつては車を使用することについて直接的・現実的に支配していることであるとされていましたが、今日では間接的な支配(指示・制御、監視・監督)でも足りるとされています

例えば、車の所有者が、その車を加害者に貸した場合、特段の事情がない限り運行支配が認められます。

運行利益

運行利益とは、車の運行によって利益を得ていることをいいます

ここでいう利益とは金銭的な利益はもちろんのこと、それ以外にも社会通念上利益と判断されるものが含まれます。

先ほどの、車を貸したケースでは、無償で貸しているなら利益を得ていないとも思えますが、友人や家族に貸したケースでは運行利益があるものとして判断されています。

2.自動車を「運行」していること

運行供用者責任は、自動車を「運行」することで他人の生命・身体を侵害することが要件となります

運行とは、自動車損害賠償保障法第2条第2項には以下の様に定めがあります。

この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。

自動車損害賠償保障法第2条第2項

ここで注意が必要なのは、「装置」という自動車よりも広い範囲を用いている点です。ここでいう装置とはエンジンだけでなく、ハンドルやブレーキなども含まれます

そのため、停車中にブレーキをかけなかった結果、事故を起こしてしまったケースのように、エンジンが動作していないケースでも「運行」に該当しうる点は注意が必要です。

3.「他人の生命又は身体を害した」こと

運行供用者責任は、自動車を運行することで「他人の生命・身体」を侵害したことが要件となります

生命または身体というのは要するに人身事故で無ければ対象外であるということです。そして、ポイントになるのが「他人の」であるという点です。

この点についてリーディングケースとなるのが、最高裁判所第三小法廷昭和47年5月30日です。

この事件は、夫が運転する車に乗車しているときにケガをした妻が夫に対して運行供用者責任を追及したケースです。

裁判では、同乗者である妻が「他人」に該当するか否かが争点となりました。最高裁は“自賠法三条は、自己のため自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という )および運転者以外の者を他人といつている”とし、その上で妻が“生活を共にしているが、自動車は夫が自己の通勤等に使用するため購入したものであり、ガソリン代、修理費等の維持費もすべて夫が負担し、運転も夫のみで、妻個人の用事のために使用したことはなく、ドライブ等のために本件自動車に同乗することもまれで、事故当時妻は免許を取得していなかったことなどを挙げて妻は「他人」であると判示しています。

この事件でポイントとなるのは、①運行供用者自身と運転者自身に生じた生命身体への損害は、運行供用者責任の対象にならない、②家族であるからといって直ちに「他人」にあたらないとはされないという2点を押さえておきましょう。

4.「運行」によって「他人の生命又は身体を害した」こと

この要件は、「運行」と「他人の生命又は身体を害した」こととの間に因果関係があることを意味しています

では、どのような関係があれば因果関係があるといえるのでしょうか。

判例・通説は相当因果関係を要求しています。つまり、因果関係があるといえるには、加害行為と結果との間に事実的関係が認められることに加え、その行為が結果発生にとって相当性を有することが必要だということです

因果関係が認められるかはケース毎の判断となるため、詳細は弁護士等の専門家へご相談ください。

5.「ただし~」以下に記載の免責事由に該当しないこと

運行供用者責任は、免責要件が定められています。具体的には、以下のいずれかに該当することです。

  • 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
  • 被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
  • 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

これらの要件について被害者側が【免責事由に当たらない】ことを立証する必要はありません。

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運行供用者責任に関する交通事故事例

運行供用者責任に関する交通事故事例

では、ここからは運行供用者責任が認められる可能性のある事例をご紹介します。

なお、以下で紹介する事例に該当しても、必ずしも運行供用者責任が認められるとは限らないため、実際の事件では必ず専門家へご相談ください。

事例1:友人から借りた自動車を運転していた人にはねられてケガをした場合

この事例では、人から無償で借りているだけであるため、運行利益が欠け、所有者(友人)は運行供用者に当たらないとも思えますが、一般的に友人や家族への無償貸与は運行利益が肯定されています。

そのため、こうした事例では、所有者である友人に対し運行供用者責任を追及できる可能性があります。

事例2:タクシーにはねられてケガをした場合

この事例では、タクシー会社はタクシーの運行を管理し利益を得ている点や、タクシーの所有者であることを理由に、運行車供用者責任を負う可能性が高いといえます。

事例3:無断で車の鍵を持ち出した人にはねられてケガをした場合

この事例では、自動車の所有者である本人は悪くないとも思えますが、鍵の管理状況から容易に持ち出せたような場合は所有者が運行供用者責任を負うこともあります。

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運行供用者責任について迷ったら弁護士にご相談を!

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運転手が保険に加入していないため十分な補償を受けられるか、とても不安でしたが、運行供用者への請求の可能性もあるということで安心しました。相手方との交渉をお願いします。

運行供用者責任はケース毎の判断となるため、一般の方には難しいかもしれませんが、加害者の資力が乏しい場合には是非検討すべきです。十分な補償が受けられるように最善を尽くさせて頂きます。

加害運転者が任意保険に加入していなかった、加害運転者の連絡先等が不明だが車両所有者は判明している、など、運行供用者への責任追及ができないかお悩みの方は是非弁護士へご相談ください。

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交通事故や請求相手でお悩みの方は是非当事務所へご相談ください。

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