
本記事の監修弁護士:浅尾 耕平
2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。
2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。
家庭内暴力(DV・ドメスティック・バイオレンス)は夫婦関係を破壊する非常に重大な問題です。DVは、離婚原因となるとともに、慰謝料請求の根拠にもなります。
しかし、DVが本当にあったのか?は争いになりやすい事柄です。DVをした側は、そこまで悪質なものではない、あるいはそもそもそのような事実はない、と否定することが非常に多いです。
そのため、DVを理由とする請求をするためには、あらかじめDVがあった、という証拠収集をしておくことが重要です。
慰謝料の相場は、証拠に基づき認定できるDVの程度により、大きく変動します。
また、DVを原因としての離婚を考えている方にとっては、さらなる被害を防ぐために保護命令制度の活用も考えられます。
そもそもDVにあたるのかの判断から、証拠の収集、相手方との交渉、安全確保の方法など、適切な解決のためぜひ専門知識のある弁護士のサポートを受けてください。
1.家庭内暴力を原因とする離婚の特徴と慰謝料請求の基本知識
家庭内暴力が原因の離婚と通常の離婚の違い
DVを原因とする場合の離婚は、通常の離婚と比べて特別な配慮や対応が必要です。DVには身体的暴力だけでなく、精神的暴力、性的暴力、経済的暴力なども含まれます。
DVを原因とする離婚では、被害者の安全確保が最優先事項となります。通常の離婚では当事者間の話し合いが基本ですが、DVの被害が実際に発生している場合は加害者との直接対話が被害者にとって危険を伴うため、弁護士を介した交渉や、裁判所の保護命令を活用するケースが多いです。
また、慰謝料請求においても、DVによる精神的・身体的苦痛が認められれば、通常の離婚よりも高額な慰謝料が認められる可能性があります。DVが原因で精神疾患を発症した場合は、治療費や休業損害なども慰謝料に加算されることがあります。
DVを原因とした離婚における慰謝料の法的根拠
慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償金のことで、民法709条(不法行為による損害賠償)と民法710条(財産以外の損害の賠償)に基づいて請求することができます。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない
DVは婚姻関係における「配偶者としての義務違反」に該当し、被害者に精神的・身体的苦痛を与えたことに対して、不法行為として慰謝料請求の対象となります。
裁判所は、DVの内容や程度、期間、被害者への影響などを総合的に判断して、慰謝料の額を決定します。重大なDVケースでは、離婚自体の原因に対する慰謝料に加えて、DVに対する慰謝料が別途認められることもあります。
2.DVを原因とした離婚における慰謝料請求のための証拠収集方法
DVの証拠となるもの
DVを原因とした離婚で慰謝料を請求するためには、DVの事実を証明する証拠が不可欠です。効果的な証拠には以下のようなものがあります。
- 医師の診断書や診療記録(暴力によって負った怪我の治療記録など)
- 怪我した箇所の写真
- 実際の暴言や脅迫の録音(事前同意なしの録音も証拠として認められる場合があります)
- LINEやメールなどの記録(暴言・脅迫された際のメッセージなど)
- 警察への相談記録(相談日時、対応した警察官の氏名を記録する)
- 目撃者の証言(家族・友人など、DVを目撃した人の証言)
- 相談機関の利用記録(DV相談支援センターなどの利用履歴)
証拠収集時の注意点とリスク回避
証拠収集の際は、自身の安全を最優先に考えることが重要です。証拠を集めようとしてパートナーを刺激し、さらなる暴力を招くことは避けるべきです。
証拠収集のためのスマートフォンやカメラの使用は、加害者に気づかれないよう細心の注意が必要です。クラウドストレージなど、加害者がアクセスできない場所にデータをバックアップしておくことも重要です。
また、証拠収集と並行して、避難先の確保や経済的自立の準備も進めておくことをお勧めします。いざという時のために、必要な書類(戸籍謄本、住民票、パスポート、銀行通帳など)を安全な場所に保管しておきましょう。
3.DVでの離婚慰謝料相場と影響要因
DVでの離婚慰謝料の一般的な相場
DVを原因とした離婚の慰謝料の相場は、DVの種類や程度、期間、被害者への影響などによって大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 軽度のDV(暴言や威圧的な態度が中心):50万円〜100万円
- 中度のDV(軽度の身体的暴力を含む):100万円〜200万円
- 重度のDV(重大な身体的暴力や長期間にわたるもの):200万円〜500万円
- 極めて重大なDV(生命の危険を伴うもの・重大な障害を負わされたもの):500万円以上
ただし、これらはあくまで目安であり、個々のケースによって大きく異なることに注意が必要です。裁判所が認める慰謝料額は、提出された証拠や裁判官の判断によって決まります。
慰謝料額に影響を与える要素
慰謝料額を左右する主な要素としては、以下のようなものがあります。
- DVの種類と程度:身体的暴力の場合、怪我の程度が重いほど慰謝料は高額になる傾向があります
- DVの頻度と期間:長期間にわたって頻繁に行われたDVは、高額な慰謝料の根拠となります
- 被害者への心理的影響:PTSDなどの精神疾患を発症した場合は、治療費や将来の治療費も含めて請求できます
- 子どもへの影響:子どもの面前でDVが行われた場合、子どもへの心理的虐待として考慮されることがあります
- 社会的地位や収入:加害者の社会的地位や収入が高い場合、慰謝料も高額になる傾向があります
これらの要素を総合的に考慮して、弁護士と相談しながら適切な慰謝料額を請求することが重要です。
4.DVによる離婚と慰謝料請求のための法的手続き

離婚調停と裁判による慰謝料請求の違い
調停等を通さない、協議離婚(話し合いでの解決)でも慰謝料は当然認められるべきですが、DV当事者は自身の非を認めない可能性が高いため、第三者を介した解決が必要となる傾向があります。
そのため、DVによる離婚で慰謝料を請求する方法には、主に離婚調停と裁判(離婚訴訟)の2つのルートがあります。
離婚調停は、裁判所の調停委員を介して話し合いによる解決を図る手続きです。費用が比較的安く、手続きも簡便ですが、DV加害者との直接対面を避けるために、別室調停を申し立てることも可能です。ただし、調停は当事者の合意が必要なため、相手が応じなければ成立しません。
一方、離婚裁判は、証拠に基づいて裁判官が判断を下す手続きです。調停よりもコストと時間がかかりますが、証拠が十分にあれば、裁判所の判断で慰謝料の支払いを命じることができます。DVの証拠が明確な場合は、裁判の方が有利になることが多いでしょう。
弁護士への相談タイミングと選び方
パートナーのDVにお悩みで離婚を考えている場合、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。特に以下のようなタイミングが適切です。
- DVが始まったと感じた時点
- 離婚を考え始めた時点
- ある程度証拠が集まった時点
- 避難先を確保した時点
弁護士選びのポイントとしては、以下の点に注目し、自分に合った経験豊富な弁護士を選びましょう。
- DV事案の取扱い実績がある弁護士を選ぶ
- 無料相談を実施している法律事務所を活用する
- 女性弁護士を希望する場合は、その旨を伝える
- 初回相談で親身に話を聞いてくれるかどうかをチェックする
弊所では、LINEでいつまでも無料でご相談が可能です。ご自身が安全なお時間、環境で今すぐご相談ください。
5.DV被害者を守る法的制度と慰謝料請求
保護命令制度の活用方法
「保護命令制度」とは、配偶者暴力防止法に基づき、DV被害者を保護するために裁判所が発令する命令であり、加害者が被害者に接近すること等を禁止するものです。保護命令には主に以下の種類があります。
- 接近禁止命令:加害者が被害者に6ヶ月間近づくことを禁止
- 退去命令:加害者に2ヶ月間、共同住居から退去することを命じる
- 電話等禁止命令:加害者による電話やメールなどの連絡を禁止
- 子への接近禁止命令:加害者が子どもに近づくことを禁止
- 親族等への接近禁止命令:被害者の親族等への接近を禁止
保護命令の申立ては、地方裁判所で行います。申立てには、DVの事実を証明する資料(診断書、写真など)が必要です。保護命令違反は、刑事罰の対象となります。
公的支援制度の活用と慰謝料請求の関係
DV被害者は、以下のような公的支援制度を利用することができます。
- DV相談支援センター:相談、一時保護、自立支援などのサービスを提供
- 住民基本台帳閲覧制限:加害者が被害者の住所を探すことを防止
- 生活保護や住宅支援:経済的に困窮している場合の支援
- 法律扶助制度:弁護士費用の立替えや分割払いの制度
これらの公的支援制度を利用することは、慰謝料請求にも有利に働く場合があります。公的機関の支援記録は、DVの事実を裏付ける証拠として活用できるためです。
一方で、慰謝料を受け取ることで、生活保護などの収入制限のある支援制度の対象外となる可能性もあるため、弁護士とよく相談して計画を立てることが重要です。
6.DVでの離婚と慰謝料に関するよくある質問
- 証拠が少ない場合でも慰謝料請求は可能ですか?
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DVの証拠が少ない場合でも、完全に諦める必要はありません。以下のような方法で慰謝料請求の可能性を高めることができます。
- 日記やメモの活用:DVがあった日時、内容、心身の状態などを記録しておく
- 信頼できる第三者への相談記録:友人や家族、相談機関に相談した記録も証拠になりうる
- 心理的DVの場合:LINEやメールの記録、録音などで言葉による暴力を証明する
- 専門家の診断:うつ病やPTSDなどの診断があれば、その原因としてDVを主張できる可能性がある
証拠が少ない場合は、離婚裁判よりも離婚調停での解決を目指した方が現実的なケースもあります。弁護士と相談しながら、最適な戦略を立てることが重要です。
- DVによる離婚の場合、親権と慰謝料はどのような関係がありますか?
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DVがある家庭では、子どもの親権は被害者側に認められることが多いですが、親権と慰謝料は基本的に別の問題として扱われます。
ただし、子どもの面前でDVが行われていた場合、それは子どもへの心理的虐待として考慮され、親権判断だけでなく慰謝料にも影響する可能性があります。子どもがDVによって精神的な影響を受けている場合は、子どもの治療費なども含めて請求できることがあります。
また、親権を争うケースでは、加害者が親権をめぐって慰謝料を減額する交渉材料にすることもあります。このような場合は、子どもの利益を最優先に考え、弁護士と慎重に対応を相談することが重要です。 子どもの福祉を守るためにも、専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。
7.一人で悩まず、DV被害を受けている場合はまずは相談を
現にDV被害を受けている場合は、離婚や慰謝料の問題よりもまずはあなたの安全を確保することが最優先です。あなたは一人ではありません。私ども弁護士やDV被害を支援する団体もいます。
私どもでは、いつまでもLINEで無料相談をお受けしています。相談内容は法律上の守秘義務で守られます。相談にハードルはありません、早めにご相談ください。