祭祀財産とは?仏壇・お墓の承継トラブルを防ぐために知っておきたい法律知識

祭祀財産とは?仏壇・お墓の承継トラブルを防ぐために知っておきたい法律知識

本記事の監修弁護士:浅尾 耕平

2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。

2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。

この記事のまとめ

祭祀財産とは、仏壇やお墓など、故人を偲ぶための特別な財産です。民法897条に基づき、通常の相続財産とは異なる扱いを受け、分割せず一人の人が承継します。承継者は慣習、被相続人の生前指定、または家庭裁判所の決定によって決まります

よくあるトラブルとしては、墓の維持費の分担や管理費の支払い義務、祭祀財産の無断処分などがあります。こうしたトラブルを防ぐためには、遺言で祭祀承継者を明確に指定し、家族間で費用分担について事前に話し合っておくことが重要です。

もし誰も引き継ぎたくない場合は、墓じまいや永代供養、合同供養などの選択肢があります。近年は「墓じまい」や「合同供養」を選ぶ人が増えています。

祭祀財産は法律上特別な保護を受け、勝手に売却や処分はできません。心と法律の両面から、しっかりと向き合うことが大切です。

目次

はじめに|仏壇やお墓は”相続財産”ではない?

「お墓を誰が継ぐのかで兄弟ともめている」

「実家の仏壇を誰が守るか決まらない」

こうした相談は少なくありません。

実は、お墓や仏壇などの”祭祀財産”は、普通の相続財産とは法律上の扱いが違います

本記事では、祭祀財産とは何か、誰がどのように引き継ぐのか、そしてトラブルを防ぐためのポイントを、わかりやすく説明します。


第1章|祭祀財産とは?

法律上の定義(民法897条)

(祭祀に関する権利の承継)

第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

民法|e-Gov 法令検索 より

つまり、お墓・仏壇・位牌・過去帳などは、普通の遺産とは違い、慣習に基づいて特別な形で引き継がれる財産とされています。

祭祀財産に含まれる主なもの

区分具体例
系譜家系図、先祖の記録など
祭具仏壇、神棚、位牌、仏具、法具など
墳墓墓地、墓石、納骨堂、永代使用権など

これらは一般的な「相続財産」とは異なり、「祭祀財産」は一人だけが引き継ぐ特別なものです。 多くの家では慣習として長男が引き継ぐケースが多いですが、これは法律で明確に決められているわけではありません。


祭祀財産は非課税|しくみと注意点

祭祀財産には基本的に相続税がかかりません。

(1)祭祀財産は相続税の「非課税財産」

相続税法第12条により、以下のような祭祀に必要な物品は相続税の課税対象外とされています。

(相続税の非課税財産)
第十二条 次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
~中略~
二 墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
相続税法|e-Gov 法令検索 より

つまり、被相続人が生前に仏壇やお墓などを購入しておくと、その分だけ相続税の対象となる財産が減るため、相続税を少なくできる可能性があります。

(2)債務控除との関係|ローン残債に注意

相続税を計算するとき、普通は故人の借金(債務)は差し引かれますが、お墓や仏壇などの祭祀財産を買うための借金は差し引けません。

つまり、次のような場合は注意が必要です。

  • 故人が生きているときに仏壇やお墓をローンで買った
  • 相続が始まったときにまだローンが残っている

→ このローン残高は相続税計算で差し引けないため、実際の節税効果は下がってしまいます。

(3)節税に利用しやすい祭祀財産の具体例

以下の財産は相続税がかからない祭祀財産として認められています。

区分具体例
墓所関連墓地、墓碑、納骨堂、永代使用権など
仏壇・仏具仏壇、位牌、仏像、香炉、ろうそく立て等
神具類神棚、神体、神具、祭具一式

これらを生前に購入しておくと、相続時に税金がかかる財産を減らすことができます。

(4)注意点|「過剰な祭祀財産」は課税対象になる可能性も

相続税対策として祭祀財産を購入する際には、以下の点に留意する必要があります。

税務署から「税金逃れ」と判断されるリスクがあるため、あまりに高価な祭祀財産は注意が必要です

  • 金製や宝石がついた仏像
  • 骨董品として高価な仏具や祭器
  • 必要以上に高級なお墓や霊園の区画

このような物は、税務署の相続税調査で「実際は投資や資産目的で買ったもの」と判断され、税金がかかる可能性があります。

価格と使用目的を適切に考えて準備をおこないましょう。

  • 常識の範囲内で仏壇やお墓を準備する
  • あからさまな節税目的と見られる高額な支出は避ける
  • 購入日・使用目的・金額などの記録をきちんと残しておく

第2章|祭祀財産の承継者の決まり方

原則:慣習による承継

民法は「慣習に従って承継」と定めており、

  • 長男が承継する
  • 家を継いだ人が引き継ぐ

など、地域や家庭ごとの“慣習”が重視されます。

慣習が不明な場合は?

  • 被相続人が生前に指定していた者
  • 家庭裁判所が祭祀承継者を指定する申立てをする

などの方法で、誰が承継すべきかが判断されます。


第3章|よくあるトラブルとその対応策

■ ケース1:兄弟姉妹で「お墓の維持費」をめぐって対立

祭祀財産は、原則として一人の人だけが引き継ぐものです。 そのため、法律上は、複数の人で費用を分け合う義務はありません。

【対応策】

  • 生前のうちに、誰が引き継ぐか・費用をどう分担するかを家族で話し合っておく
  • 引き継ぐ人が決まっていない場合は、裁判所に申し立てる

■ ケース2:墓の管理費(永代使用料など)は誰が払うの?

お墓の管理費や永代供養料については、法律で支払い義務者が明確に決められていません

ただ、実際にはお墓を引き継いだ人が管理費を支払うのが一般的です。

また、家族間の配慮として、遺言などで次のような方法をとることもあります。

【対応策】

  • 遺産から「お墓の管理費用」として一定のお金を別に残しておく
  • 相続人の間で管理費を分担することを話し合って決める

■ ケース3:祭祀財産が無断で売られたり処分されたりした場合

お墓や仏壇などの祭祀財産は、勝手に売ったり分けたりできないものです。

【対応策】

  • 法律上は祭祀財産を引き継いだ人が所有権を持っているため、返還を求める権利があります

■ ケース4:疎遠な親族が「仏壇を引き取りたい」と主張

法律上の承継者が優先されます。感情面とは別に、承継の事実があれば拒否できます

【対応策】

  • 誰が引き継ぐかを明確に遺言で示す
  • 争いを避けるために家族内の合意形成を事前に行う

第4章|祭祀財産をめぐる法律的注意点まとめ

項目相続財産祭祀財産
法的根拠民法896条(包括承継)民法897条(慣習)
承継の方法遺産分割・相続人全員の共有もあり得る慣習・指定・裁判所の決定で一人が承継
分割・換価分割・売却可能原則として不可
紛争時の対応家庭裁判所の遺産分割調停・審判家庭裁判所の祭祀承継者指定申立て

第5章|トラブルを防ぐためにできること

祭祀財産のトラブルを防ぐためには、以下のような対策を検討しましょう。相続の専門家として、弁護士などに相談するのが確実です。

  • 遺言で「祭祀承継者」を明確に指定しておく
  • 仏壇・墓地の所在や管理費の支払い記録を残しておく
  • 家族で定期的に祭祀に関する意思確認の場を設ける

第6章|もしお墓や仏壇を引き継ぐ人がいない場合の対応

家族の中で誰もお墓や仏壇を引き継ぎたくない場合は、次のような方法があります。

状況できること
引き継ぐ人がいないお寺や霊園に相談して「墓じまい」や「永代供養」に変更する
家族の中に引き受ける人がいない家庭裁判所に申し立てをして、引き継ぐ人を決めてもらうことができる
管理が難しい仏壇や遺骨を合同供養したり、永代供養墓地に移すことを検討

最近は、お墓を引き継げる人がいないケースが増えていて、「墓じまい」や「合同供養」を選ぶ人が多くなっています。


まとめ|祭祀財産は心と法律の両面で考えましょう

祭祀財産は、故人を偲ぶための大切なものであり、普通の財産とは違う法律上の扱いを受けます。

「誰が引き継ぐか」「どう管理していくか」は、法律だけでなく、家族でしっかり話し合うことが大切です。

ライトプレイス法律事務所では、LINEで無料相談を受け付けています。 相談後に事案を確認してアドバイスをしますが、正式に契約するまでは費用はかかりません。

祭祀財産の引き継ぎについての相談や、トラブルを防ぐための遺言作成のお手伝いもしています。お墓や仏壇の引き継ぎについて不安な方は、ぜひLINEでご相談ください。

相続のご相談もLINEで!
ライトプレイス法律事務所の
「チャット弁護士」

24時間365日受付中!相続の悩みはいますぐ弁護士に相談

\何回でもいつまでも無料/

目次