
本記事の監修弁護士:菅原 啓人
2021年1月弁護士登録(現在、東京弁護士会所属)。
都内の法律事務所にて、交通事故案件を中心に、労働事件、不貞、離婚事件等の一般民事事件を担当。
2024年10月ライトプレイス法律事務所に入所。
趣味は、野球観戦、映画鑑賞、旅行、スイーツ巡り等。
仕事中にケガをしてしまった。でも「擦り傷程度だし、労災申請なんて大げさかも…」――そんなふうに迷っていませんか?
実は、労災保険には「ケガの軽重による制限」はありません。
労働者災害補償保険法(労災保険法)第7条では、「業務上の事由による負傷」であれば、その程度に関わらず補償の対象とされています。
擦り傷や打撲といった軽いケガはもちろん、重い荷物による腰痛や、同じ作業の繰り返しで起きる腱鞘炎なども労災に該当します。また、軽いと思って放置したケガが後から悪化するケースも少なくありません。
正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員もすべて対象ですので、早めの申請が大切です。
今すぐ確認!労災申請できる怪我の基準
どんな軽い怪我でも労災の対象になる理由
「擦り傷くらいで労災申請なんて…」と遠慮する必要はまったくありません。
労災保険は、労働者を幅広く保護するための制度です。
労災保険法では、業務が原因で生じたケガや病気であれば、その程度を問わず補償の対象とされています。つまり、「軽微なケガは除外」といった制限はありません。
では、なぜ軽いケガでも申請すべきなのでしょうか。
① 治療費の自己負担がゼロになる
労災が認定されれば、診察代・薬代などが全額補償されます。
健康保険を使う場合の3割負担が不要になり、経済的な負担を大きく減らせます。
② 症状の悪化を防げる
「たいしたことない」と思っていた擦り傷が化膿したり、軽い腰痛が椎間板ヘルニアに進行することもあります。
初期の段階で労災申請しておけば、継続的な治療や再診もスムーズに受けられます。
実際にあった労災認定の事例
【事例1】工場での操作ミスによる怪我
工場で従業員が機械の操作を誤って手を挟み負傷。本人のミスでしたが、業務中の事故であるため労災が認定されました。
ポイント:労災保険は無過失補償制度のため、過失相殺は行われず、満額の補償を受けられます。
【事例2】通勤中の転倒事故
駅の階段で転倒し、打撲と擦り傷を負った会社員が通勤災害として認定されました。
ポイント:合理的経路での通勤中であれば、本人の不注意であっても労災の対象となります。
【事例3】デスクワークでの腰痛
長時間のパソコン作業により腰痛を発症した事務職員。
反復的な姿勢保持負荷が原因とされ、業務に起因する疾病として労災が認定されました。
これらの事例からわかるのは、
「怪我の重さ」ではなく「仕事との関連性」こそが労災認定のポイントだということです。小さなケガでも、業務との因果関係が明確であれば、労災の対象となります。
労災申請できる怪我・病気の具体例
仕事中の事故による怪我(業務災害)
仕事中に起こる怪我は、その原因や状況によってさまざまです。その典型的な例を見てみましょう。
製造業・建設業でよくある怪我
- 機械への巻き込まれ事故
- 高所からの転落による骨折
- 重量物の落下による打撲
- 工具による切り傷
- 溶接作業中のやけど
- 感電による負傷
オフィスワークでも起こる怪我
- 階段での転倒による捻挫
- 書類で指を切る
- 椅子から転落しての打撲
- 重い荷物を運んでのぎっくり腰
サービス業・小売業での怪我
- 床が濡れていて滑って転倒
- 商品陳列中の負傷
- お客様対応中の暴行被害
- 配達中の交通事故
どの業種でも、仕事中であれば基本的に労災の対象です。
「こんな軽い怪我で…」と思わず、まずは上司に報告し、必要に応じて労災指定医療機関や労働基準監督署に相談しましょう。
通勤中の怪我(通勤災害)
通勤災害として認められるには「合理的な経路と方法」という条件があります。
ただし、この条件は思っているより柔軟に運用されています。
認められるケース
- 自宅から会社への通常ルートでの事故
- 帰宅途中にコンビニに寄った後の事故(⽇用品の購入など日常生活上必要な行為)
- 子どもの送迎後に出社する途中の事故
- 通院してから出社する途中の事故
認められないケース
- 飲み会の二次会後の事故
- 映画館などへの大幅な寄り道後の事故
- 休日の私的な外出中の事故
通勤途中の一時的な寄り道でも、「日用品の購入」「子の保育園送迎」など日常生活上やむを得ない行為であれば、通勤の合理的経路からの逸脱・中断には当たらず、通勤災害として認められることがあります。
(労災保険法第7条第2項)
徐々に発症する職業病
急な怪我だけでなく、仕事が原因で徐々に発症する病気も労災の対象です。
代表的な職業病
- 腰痛症:重量物の取り扱いや長時間の同一姿勢
- 頸肩腕症候群:パソコン作業などの反復動作
- じん肺:粉じん作業による肺疾患
- 振動障害:チェーンソーなど振動工具使用による末梢神経障害
- 熱中症:高温環境下での作業
- うつ病・適応障害:過重労働やパワーハラスメントなどによる精神的負荷
職業病の労災認定は、労働基準監督署長が厚生労働省の「職業病認定基準」に基づいて判断します。
そのため、医師の診断書だけでなく、勤務状況・業務内容・作業環境を示す資料(勤怠記録・作業日報など)の提出が重要です。
労災の認定基準に関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。

労災申請の具体的な手順とポイント
怪我をしたら、以下の順番で行動してください。
1. 安全確保と応急処置
まずは二次災害を防ぎ、必要な応急処置を行います。
2. 上司への報告(当日中に)
どんなに軽い怪我でも、必ず当日中に上司に報告してください。「後日報告」は労災認定の障害になることがあります。
3. 病院での受診
労災指定病院なら窓口負担なしで治療を受けられます。その際、必ず「仕事中(または通勤中)の怪我です」と伝え、健康保険証は使用しないでください。
なお、指定医療機関以外を受診した場合でも、後日「療養費」として払い戻しを受けることが可能です(様式第7号または第16号の5)。
4. 事故状況の記録
以下の内容をメモや写真で記録しておきましょう。
- いつ(日時)
- どこで(具体的な場所)
- 何をしているときに(作業内容)
- どのように(事故の経緯)
- 誰が見ていたか(目撃者)
労災申請に必要な書類は、怪我の状況によって異なります。
療養補償給付(治療費)の申請
- 様式第5号(業務災害の場合)
- 様式第16号の3(通勤災害の場合)
休業補償給付(休業4日目から)の申請
- 様式第8号(業務災害の場合)
- 様式第16号の6(通勤災害の場合)
申請書には医師の証明欄があり、「業務上の負傷・疾病」である旨の記載が必要です。
これらの書類は労働基準監督署で入手できるほか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードも可能です。
書類が揃ったら、勤務先所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
労災申請の内容・手続きについては以下の記事もご参考ください。

社が労災申請に協力的でないケースもあります。
対処法
- 労働基準監督署に直接相談する
- 会社の証明がなくても申請書は受理される
- 労働組合があれば相談する
- 弁護士や社会保険労務士に相談する
労働者災害補償保険法施行規則第23条では、事業主に労災申請への協力義務が定められています。
正当な理由なく協力を拒否した場合、労働基準監督署が会社に照会し、職権で調査・認定を行います。
非協力的な対応は行政指導や処分の対象となる可能性もあるため、遠慮せず専門機関に相談しましょう。
なお、会社が労災を認めないケースについては以下の記事にて対処法を解説していますので、併せてお読みください。

よくある質問(FAQ)
- パートやアルバイトでも労災は使えますか?
-
はい、使えます。雇用形態に関係なく、すべての労働者が労災保険の対象です。正社員、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、さらには外国人労働者も含まれます。
- 自分の不注意が原因でも労災になりますか?
-
なります。労災保険には過失相殺がないため、本人の不注意やミスが原因でも、業務中の事故なら満額の補償を受けられます。ただし、故意の事故や飲酒による事故は対象外です。
- 労災申請したら会社での立場が悪くならないか心配です
-
労災申請は労働者の正当な権利です。申請を理由とした不利益な取り扱いは法律で禁止されています。もし嫌がらせを受けた場合は、労働基準監督署に相談してください。
- 申請から認定まで、どのくらい時間がかかりますか?
-
通常の怪我なら1〜3か月程度です。ただし、因果関係が複雑な職業病や精神疾患の場合は、半年以上かかることもあります。
- 健康保険を使ってしまった後でも労災に切り替えられますか?
-
可能です。労災であることが後から判明した場合、健康保険から労災保険への切り替え手続きができます。病院の医事課に相談してください。
まとめ:軽い怪我でも遠慮せず労災申請を
労災保険は、働くすべての人を守るセーフティネットです。怪我の大小に関わらず、仕事が原因なら堂々と申請する権利があります。
特に覚えておいていただきたいのは、以下の3点です。
- どんなに軽い怪我でも労災申請は可能
- 早めの報告と申請が重要(後から症状が悪化することもある)
- 会社が非協力的でも、自分で申請できる
「会社に迷惑をかけたくない」という気持ちは分かりますが、労災保険料は会社が全額負担している保険です。従業員が適切に利用することは、むしろ制度の本来の目的に沿っています。
また、労災申請は職場の安全改善にもつながります。小さな事故の報告が、将来の大事故を防ぐきっかけになることもあるのです。
もし今、怪我をして労災申請を迷っているなら、まずは労働基準監督署に相談してみてください。専門の相談員が、あなたの状況に応じたアドバイスをしてくれます。
安全で健康的に働き続けるために、労災保険という制度を正しく理解し、必要な時には適切に活用していきましょう。
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