労災事故での安全配慮義務違反で慰謝料請求は可能?弁護士が解説する違反が認められるポイント

労災事故での安全配慮義務違反で慰謝料請求は可能?弁護士が解説する違反が認められるポイント
本記事の監修弁護士:菅原 啓人

本記事の監修弁護士:菅原 啓人

2021年1月弁護士登録(現在、東京弁護士会所属)。
都内の法律事務所にて、交通事故案件を中心に、労働事件、不貞、離婚事件等の一般民事事件を担当。
2024年10月ライトプレイス法律事務所に入所。
趣味は、野球観戦、映画鑑賞、旅行、スイーツ巡り等。

この記事のまとめ

労働災害に遭った際、労災保険から慰謝料は支給されません。しかし、会社の安全配慮義務違反が認められる場合には、別途損害賠償請求によって慰謝料や十分な逸失利益を得られる可能性があります。

安全配慮義務とは、労働契約法第5条で定められた「使用者が労働者の生命・身体・健康の安全を確保するよう必要な配慮をする義務」です。違反の成立には予見可能性結果回避可能性が必要とされ、機械の安全装置未設置、安全教育不足、長時間労働の放置などが典型例です。

過失相殺により減額される場合もありますが、適切な対応により労災保険を超える十分な補償を受けられる可能性があります。

目次

安全配慮義務とは何か

法的根拠と基本概念

安全配慮義務は、労働契約法第5条に明文化された使用者の基本的義務です。同条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

(労働者の安全への配慮)
第五条
 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法|e-Gov 法令検索 より引用

この概念は、陸上自衛隊車両整備工場事件(最判昭和50年2月25日)で初めて明確に認められました。車両整備中の隊員がトラックに轢かれて死亡した事故で、最高裁は国に安全配慮義務違反を認め、以後の労災における損害賠償請求の法的基盤となりました。

労働安全衛生法との違い

労働安全衛生法では、第22条で「事業者は、労働者の安全と健康を確保するために必要な措置を講じなければならない」と定め、第59条で「労働者に対する安全衛生教育の実施義務」を課しています。

これらの条文は、使用者が守るべき最低限の安全基準を示したものです。

一方で、安全配慮義務はこれらの法令義務を超える、より包括的な概念です。

労働安全衛生法を形式的に遵守していたとしても、現場の実態に照らして追加の安全措置や配慮が必要であった場合には、安全配慮義務違反が認められることがあります。

安全配慮義務違反の成立要件

安全配慮義務違反が成立するためには、予見可能性結果回避可能性の2つの要件を満たす必要があります。

これらはいずれも過失(注意義務違反)の有無を判断する重要な基準です。

予見可能性の判断基準

予見可能性とは、使用者が労働災害の発生を事前に予測できたかどうかということです。

これは、同業種・同規模の事業者として通常期待される注意義務の範囲内で判断されます。

予見可能性が認められやすい典型例としては、以下のようなものがあります。

  • 過去に同様の事故やヒヤリハットが発生していた
  • 機械設備の老朽化や異音など、故障の兆候があった
  • 危険作業における安全対策・マニュアルが不十分だった
  • 長時間労働や過重負担により健康被害の恐れがあった

これらに加えて、業種・作業内容・企業規模・専門知識の有無なども考慮要素となります。


結果回避可能性の要素

結果回避可能性とは、使用者が適切な措置を講じることで事故を防止できたかどうかという判断基準です。

ここでは「技術的・経済的・社会的に合理的な範囲での回避措置」が求められます。

具体的な回避措置の例としては以下が挙げられます。

  • 安全装置(カバー、安全帯など)の設置や使用指示
  • 機械設備の定期点検・整備の実施
  • 作業員への適切な安全教育・訓練の実施
  • 危険区域の立入禁止措置や監視体制の構築
  • 労働時間管理や健康診断による過重労働の防止

両要件の関係

予見可能性と結果回避可能性は相互に関連し、両方が認められて初めて安全配慮義務違反が成立します。

つまり、危険を予見でき、かつ回避できたにもかかわらず必要な措置を怠った場合に過失が認められるという構造です。

労災保険給付との関係

労災保険の限界

労災保険では、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付などが支給されますが、慰謝料は一切支給されません

また、休業補償給付は給付基礎日額の60%、休業特別支給金が20%で、収入の約8割にとどまります。平均賃金を基礎とした定型的な給付のため、逸失利益の全額をカバーすることはできません。

さらに、労災における後遺障害等級認定は、自賠責保険とは基準が異なります。

自賠責が日常生活への支障を中心に評価するのに対し、労災は労働能力への影響を重視する傾向があります。

そのため、職種や業務内容によっては自賠責よりも高い等級が認定される場合があります。

また、認定手続きにおいては、診断書や画像所見などの書面審査に加え、必要に応じて労災病院の医師による面談や現認が行われます。症状を適切に説明し、医療記録を整理して提出することで、より妥当な認定を受けられる可能性が高まります。

損益相殺の仕組み

会社への損害賠償請求が可能でも、既に労災保険給付を受けている場合には二重に補償を受けることができないという原則から労災保険給付との間の調整(損益相殺)が問題となります。

労災保険の給付は目的(費目)が法律で明確に定められており、対応する損害項目に限定して控除されます。これを費目拘束の原則といいます。

具体的な調整関係は以下のとおりです。

労災保険給付の種類損害賠償上の対応項目慰謝料への影響
療養補償給付治療関係費減額されない
休業補償給付休業損害(収入減少分)減額されない
障害補償給付逸失利益(将来収入減少分)減額されない

したがって、

慰謝料は労災保険の控除対象とならず、満額請求が可能

です。

また、休業特別支給金や障害特別支給金などの「特別支給金」は恩恵的給付とされ、損益相殺の対象外とされています。

典型的な安全配慮義務違反事例

物理的安全対策の不備

工場や建設現場などでの労災事故では、以下のような直接的・間接的安全対策の欠如が問題となります。

直接的対策の不備

  • 機械への安全カバー未設置
  • 安全帯・ヘルメット等の着用指示の欠如
  • 危険箇所への安全柵・立入禁止措置の未設置
  • 換気・排気設備の未整備による有害ガス吸入

間接的対策の不備

  • 機械・設備の定期点検・整備の怠り
  • 安全マニュアルの未整備または形骸化
  • 日常点検・作業前ミーティング(KY活動)の未実施

事故後に講じられた安全対策は、直接的な過失の証明とはなりませんが、「同様の措置を事前に取っていれば結果を回避できた」との推認を裏付ける重要な資料となります。

安全教育・指導の不足

労働安全衛生法第59条では、新規採用時や作業内容変更時に安全衛生教育を行う義務が明確に定められています。

(安全衛生教育)
第五十九条
 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
2 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。
3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

労働安全衛生法|e-Gov 法令検索 より引用

教育を怠った場合や教育内容が不十分な場合は、安全配慮義務違反が認定されることがあります。

特に、教育実施の記録(教育台帳・受講者リスト等)が存在しない場合、裁判では「教育を実施していなかった」と推認される傾向があります。

メンタルヘルス配慮の欠如

近年増加している事例として、過重労働やパワーハラスメントによる精神的健康被害があります。

  • 月80時間を超える時間外労働を長期間放置する
  • 適切な休息時間の未確保
  • パワハラ・セクハラの見過ごし
  • 社内相談窓口やメンタルヘルス体制の未整備

こちらもやはり、職場の状況や業務の態様などから、メンタルヘルスの被害に対する予見可能性・結果回避可能性への必要な配慮を怠ったと判断された場合は、安全配慮義務違反に該当する可能性があるといえます。

損害賠償請求の実務

請求可能な損害項目

安全配慮義務違反が認められる場合、以下の損害を請求できます。

積極損害(現実に支出した損害)

  • 怪我の治療費
  • 病院の入院費
  • 通院交通費
  • 装具・器具購入費
  • 介護費用

消極損害(被災しなければ得られたであろう収入)

  • 休業損害
  • 逸失利益(将来の収入減)

精神的損害

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

過失相殺の考慮

被災労働者にも過失がある場合、過失相殺により賠償額が減額される可能性があります。しかし、安全配慮義務は手段債務であり、会社が適切な安全措置を講じていれば事故は防げたはずという観点から、使用者側が必要な安全措置を怠っていた場合には労働者側の過失は限定的に評価されるのが実務の傾向です。

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実際の裁判でも、被災者に一定の過失があっても、会社の責任を認めて賠償を命じる判決は多く存在します。

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