労災認定基準の完全ガイド|業務災害から通勤災害まで徹底解説

労災認定基準の完全ガイド|業務災害から通勤災害まで徹底解説
本記事の監修弁護士:菅原 啓人

本記事の監修弁護士:菅原 啓人

2021年1月弁護士登録(現在、東京弁護士会所属)。
都内の法律事務所にて、交通事故案件を中心に、労働事件、不貞、離婚事件等の一般民事事件を担当。
2024年10月ライトプレイス法律事務所に入所。
趣味は、野球観戦、映画鑑賞、旅行、スイーツ巡り等。

この記事のまとめ

労災認定基準は、労働者が仕事中や通勤中に負傷・疾病・死亡した場合に労災保険の給付を受けるための重要な判断基準です。業務災害では「業務遂行性」と「業務起因性」の2要件を満たす必要があり、通勤災害では合理的な経路・方法による移動が必要ですが、私的な逸脱や中断があると対象外となることがあります。

精神疾患については原則として発症前6か月以内の心理的負荷を評価し、重大な出来事がある場合にはそれ以前も対象となります。脳・心臓疾患では、発症前1か月に100時間超、または2~6か月間で平均80時間超の時間外労働があると、業務起因性が強く推認されます。

労災認定により療養補償、休業補償、障害補償などの給付が受けられますが、認定には通常2~3か月程度を要します。適切な労災申請のためには、事故態様の正確な把握や医師の診断書が不可欠であり、不認定の場合は審査請求により再審査を求めることも可能です。

目次

労災認定基準とは何か

労災認定基準とは、労働者が業務上や通勤中に負った負傷、疾病、障害、死亡について、厚生労働省が定め、労働基準監督署などが労災保険給付の可否を判断するための統一的な基準です。

参考リンク:労災補償|厚生労働省

労災認定は単に事故が起きたからといって自動的に認められるものではなく、労災保険制度の公正性と適正性を確保するため、厚生労働省が詳細な認定基準を設けています。この基準に基づき、個別事案について適正に判断がなされ、該当する場合にのみ、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付などが支給されます。

労災認定基準の特徴として、医学的知見をはじめ、業務との因果関係や社会通念に照らした客観的な判断基準が設けられている点が挙げられます。近年では働き方の多様化や職場環境の変化に応じて基準の見直しも行われており、2020年には精神障害の認定基準にパワーハラスメントの項目が追加され、2021年には脳・心臓疾患の認定基準が約20年ぶりに改正されました。

業務災害の労災認定基準

業務災害として労災認定を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの基本要件を満たす必要があります。

業務遂行性の判断基準

業務遂行性とは、労働者が事業主の支配・管理下にある状況で災害が発生したことを意味します。具体的には以下のような状況が該当します。

  • 就業時間中に事業場内で業務に従事している時
  • 事業場施設内でトイレや休憩などの生理的行為を行っている時
  • 出張先や外回り営業中などの業務遂行時
  • 会社主催の歓送迎会や社員旅行などについて、業務との関連性が強く、参加が実質的に義務付けられている等、実質的に業務の延長と認められる場合

ただし、就業時間中であっても私的行為による災害は業務遂行性が否定される場合があります。例えば、昼休み中の私用外出での事故は労災認定されない可能性があります。

業務起因性の判断基準

業務起因性とは、災害と業務との間に相当因果関係があることを指します。すなわち、労働者が事業主の支配・管理下で従事する業務に内在する危険が、通常の経験則に照らして現実に災害として現れたといえる場合、業務起因性が認められます。

業務起因性の判断では、以下の要素が考慮されます。

  • 業務に内在する危険性の程度
  • 災害発生の予見可能性
  • 業務と災害発生との時間的・場所的近接性
  • 災害発生に至る経緯の合理性

例えば、機械への巻き込まれ高所作業中の転落といった明白に業務に起因する「事故型労災」は、業務起因性が明確であるため、比較的認定されやすい傾向にあります。

通勤災害の労災認定基準

通勤災害は、通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡を指し、労災保険法第7条第2項で以下の3つの移動が「通勤」と定義されています

「通勤」の定義と範囲
  1. 住居と就業場所との往復:自宅から職場、および職場から自宅への移動
  2. 就業場所から他の就業場所への移動:複数の勤務先間の移動
  3. 住居と就業場所との往復に先行・後続する住居間の移動:単身赴任者が赴任先住居と帰省先住居を往復する場合など

合理的な経路および方法

通勤災害として認定されるためには、合理的な経路および方法で移動していることが必要です。合理的な経路とは、一般的に労働者が用いると認められる経路を指し、必ずしも最短経路である必要はありません。

通勤手段についても、電車、バス、自動車、自転車、徒歩など、社会通念上妥当と認められる方法であれば問題ありません。事前に会社に申告していた経路と異なっていても、その経路や手段が合理的であれば通勤中として認められます

逸脱・中断の取扱い

通勤経路を逸脱または中断した場合、原則として逸脱・中断の間および逸脱・中断後は通勤とは認められません。ただし、以下の場合は例外として扱われます。

  • 日用品の購入その他厚生労働省令で定める行為
  • 職業能力開発促進法第24条第1項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練の受講
  • 選挙権の行使その他の公民としての権利の行使または公民としての義務の履行
  • 病院または診療所において診察または治療を受けることその他の厚生労働省令で定める行為

これらの行為を終えて合理的な経路に復帰した後の災害は、再び通勤災害として取り扱われます。

精神疾患の労災認定基準

近年増加している精神疾患による労災申請に対しては、2020年の基準改正でパワーハラスメントが明確に追加されるなど、時代に即した基準が設けられています。

精神疾患の認定要件

精神疾患に関する労災認定基準では、以下の3つの要件を原則としてすべて満たす必要があります。

  1. 認定基準の対象となる精神疾患を発病していること:うつ病、急性ストレス反応、適応障害など
  2. 精神疾患の発病前おおむね6か月間以内に業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個人的要因により精神疾患を発病したとは認められないこと

心理的負荷評価表による判断

業務による心理的負荷の強度は「業務による心理的負荷評価表」を用いて「弱」「中」「強」の3段階で評価されます。心理的負荷が「強」と評価された場合に労災認定される可能性が高くなります。

参考リンク:心理的負荷による精神障害の認定基準について (厚生労働省資料:PDFが開きます)

心理的負荷評価表によると、パワーハラスメントについては、以下のような場合に心理的負荷が「強」と判断されます。

  • 上司等から治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
  • 上司等から暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
  • 上司等から人格や人間性を否定するような精神的攻撃を執拗に受けた場合
  • 意図的な無視や職場での孤立など、人間関係からの切り離しを受けた場合

※「強」と評価されるかどうかは、行為の頻度・継続性・職場の状況・被害者の受け止め方など、様々な事情を総合的に判断して決定されます。

2023年改正のポイント

2023年9月の精神障害の労災認定基準改正では、以下の項目が新たに追加・明確化されました。

改正項目改正内容
カスタマーハラスメント(カスハラ)の追加・顧客や取引先からの土下座の強要、繰り返される侮辱的言動やSNS上での誹謗中傷などが追加
感染症等の病気や事故の危険性が高い業務への従事・医療、介護、保育など、高い感染リスクのある職場に従事させられたことによる精神的負荷も、認定対象として新設
パワハラ6類型すべての具体例の明示・すべてのハラスメント類型について代表的な具体例が明記
・とりわけ「性的指向・性自認に関する精神的攻撃」などの人権侵害的言動を精神的攻撃として位置づけ

脳・心臓疾患(過労死)の労災認定基準

脳・心臓疾患の労災認定基準は、2021年9月に約20年ぶりに改正され、働き方の多様化や最新の医学的知見を踏まえた内容となっています。

長時間労働の評価基準

脳・心臓疾患の発症と業務との関連性の判断において、長時間労働は非常に重要な要素です。改正後の基準では、以下の時間外労働時間がいわゆる「過労死ライン」として設定されています。

  • 発症前1か月間に100時間超の時間外労働
  • 発症前2か月間から6か月間にわたって月平均80時間超の時間外労働

これらの基準に該当する場合には、発症との関連性が強く疑われ、業務起因性が認められる可能性が高くなります
※ただし、労災認定は他の業務要因や健康状態なども含めて総合的に判断されます。

2段階評価の導入

2021年改正では、上記「過労死ライン」に達していない場合であっても、業務起因性の判断において、他の負荷要因も含めて総合的に評価する枠組みが導入されました(いわゆる、「2段階評価」)。

特に、おおむね月65時間を超える時間外労働が認められる場合には、以下のような「業務の質的負荷要因」と併せて判断されます。

  • 勤務時間の不規則性(拘束時間が極端に長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務など)
  • 事業場外における移動を伴う業務(出張や外回り等)
  • 心理的負荷を伴う業務(顧客対応、クレーム処理、責任の重い業務など)
  • 身体的負荷を伴う業務(重量物の運搬、長時間の立ち仕事等)
  • 作業環境(極端な温度環境、騒音、振動など)

このように、時間外労働時間に加えて、業務の質的特性や就労状況を含めて総合的に判断されることにより、実態に即した労災認定がなされやすくなっています。

短期間の過重業務

また、発症前1週間以内に特に過重な業務があった場合も、以下の場合に業務と発症との関連性が強いと判断される可能性があります。

  • 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合(1日15時間以上の勤務が連日続くなど)
  • 発症前1週間以内に発症に、特に過度の身体的または精神的負荷を生じさせる業務が認められる場合(重大トラブルへの対応、大規模クレーム処理、過酷な環境下での作業など)

こうした短期間での過重業務は、中長期の労働時間と同様に、業務起因性の判断要素として重要視されます。

労災保険給付の種類と内容

労災認定を受けた場合、労働者の状況に応じて以下の保険給付が支給されます。

療養補償給付

労働者が業務災害により負傷・疾病した場合、その治療費については原則として「現物給付」(労災指定医療機関での無料治療)により支給されます。やむを得ず指定外の医療機関で治療を受けた場合には、「現金給付」(立替払の償還)により補償されます。労働者の自己負担は原則ありません。

休業補償給付

業務災害により労働不能となり賃金を受けられない場合、休業4日目から給付基礎日額の60%が支給されます。さらに、休業特別支給金として給付基礎日額の20%が加算され、実質的に賃金の80%相当が補償されます。

障害補償給付

治療を続けても症状が固定し(医学的にこれ以上の改善が見込めない状態)、身体に一定程度の障害が残った場合に支給されます。

  • 障害等級1級から7級:障害補償年金として毎年支給
  • 障害等級8級から14級:障害補償一時金として一括で支給

後遺障害の等級認定は、労災の方が自賠責保険よりも緩やかに判断される傾向があります。

その他の給付

他にも、状況により以下のような給付を受けられます。

  • 遺族補償給付:業務災害により死亡した場合の遺族への給付
  • 葬祭料:葬儀を行う遺族等に支給
  • 介護補償給付:障害等級1級または2級で常時または随時介護が必要な場合に支給

労災申請の手続きと注意点

申請手続きの流れ

ここまで、労働災害が認定される基準や受けられる給付について解説してきました。それでは、実際の労災申請はどのような方法で行うのでしょうか。

通常、労災申請は以下の手順で行います。

STEP
医療機関での治療

申請や補償・賠償請求の検討をする前に、まずは適切な医療機関で治療を受けましょう。

STEP
労災申請書類の準備

申請する給付の種類に応じて所定の様式(例:様式第5号・第8号など)を、厚生労働省のホームページまたは労働基準監督署で入手します。

STEP
申請書類の提出

必要事項を記入のうえ、原則として事業場または災害発生地を管轄する労働基準監督署へ提出します。

STEP
調査・審査

申請を受けた労働基準監督署が、診断書、出勤記録、業務内容、会社・医師からの聴取内容などをもとに、業務遂行性・業務起因性の有無を調査します。

STEP
認定・不認定の決定

通常2-3か月程度で結果通知(精神疾患や死亡災害など、複雑な事案では半年以上かかることもあります)

重要な注意点

時効について

労災保険給付の請求権には時効があります。療養補償給付と休業補償給付は2年障害補償給付と遺族補償給付は5年で時効となります。これを過ぎると原則として請求できなくなります。

会社の協力について

労災申請書類には事業主の証明欄がありますが、会社の協力が得られない場合でも労働者本人が申請することは可能です。会社の協力が得られない場合は、その旨を申請書に記載して提出します。

後遺障害申請

症状が医学的に固定した後(症状固定)、障害が残っている場合には、障害補償給付(年金または一時金)の申請を行います。提出書類としては、医師による後遺障害診断書(様式第10号)および支給請求書(様式第7号または第8号)などが必要となり、認定までには通常2〜3か月程度を要します。

不認定の場合の対応

労災申請が不認定となった場合、決定通知書を受け取った日の翌日から3か月以内に審査請求を行うことができます。審査請求は都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行い、さらに不服がある場合は労働保険審査会への再審査請求も可能です。

不認定理由を十分に検討し、追加の医学的資料や事実関係を明らかにする証拠を準備することで、審査請求において認定される可能性があります。

まとめ

労災認定は労働者の生活と健康を守る重要な制度であり、適切な理解と活用が求められます。近年の基準改正により、精神疾患や脳・心臓疾患についてもより実態に即した認定が可能となってきています。

労災に遭った場合は、まず適切な医療機関での治療を最優先とし、並行して労災申請の準備を進めることが重要です。事故態様の正確な記録、医師の診断書、職場の安全対策状況などの証拠資料収集が認定の可否を左右する場合があります。

また、会社側に目を向けると、企業も労働安全衛生法に基づく安全配慮義務を果たし、労災の発生防止に努めるとともに、万が一労災が発生した場合は適切な対応を取ることが求められます。労災認定は単なる保険給付の問題にとどまらず、民事上の損害賠償責任にも影響を与える可能性があるため、事業主としても正確な基準の理解が不可欠です。

複雑な事案や専門的な判断が必要な場合は、労災に詳しい弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談することも重要な選択肢の一つです。

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