【基礎知識】離婚における夫婦の財産分与について

【基礎知識】離婚における夫婦の財産分与について

本記事の監修弁護士:東山 詩奈

2012年12月弁護士登録。愛知県内の法律事務所に勤務し、企業法務のほか、交通事故、不動産、離婚・相続のなどの多くの一般民事事件の訴訟・紛争対応に従事。2015年三菱UFJ信託銀行株式会社に入社。国内外の法規制対応、コンプライアンス対応、海外子会社の経営管理などを担当。2024年ライトプレイス法律事務所に入所。

この記事のまとめ

離婚時の財産分与は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を公平に分け合う重要な制度です。

財産分与には「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3種類があり、最も基本的なのは清算的財産分与です。基本的には2分の1の割合で分割され、専業主婦であっても家事・育児の貢献が評価されます。

対象となる財産は婚姻中に築いた共有財産で、不動産、預貯金、保険、退職金なども含まれます。配偶者の不倫や浮気があっても財産分与の割合は原則変わりませんが、慰謝料は別途請求できます。手続きは協議、調停、審判の順に進み、離婚から2年以内に請求する必要があります。適切な知識を持って臨むことで、公平な財産分与を実現できます。

目次

離婚時の財産分与とは何か

財産分与の基本的な意味

財産分与とは、離婚する際に婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産を、それぞれの貢献度に応じて公平に分け合うことをいいます。民法第768条に定められた制度で、離婚した配偶者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができます。

(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

この制度の根拠は、夫婦が結婚生活において共同で財産を形成・維持してきたという考え方にあります。たとえば、夫が外で働いて収入を得ている間、妻が家事や育児を担当して家庭を支えていた場合、その収入によって築かれた財産は実質的に夫婦二人の協力の成果であると考えられるのです。

財産分与の法的性質

財産分与には主に3つの性質があります。第一に、夫婦が共同生活で形成した財産の公平な分配という清算的性質、第二に離婚後の生活保障という扶養的性質、第三に離婚原因を作ったことへの損害賠償という慰謝料的性質です。このうち最も基本となるのは清算的性質であり、一般的に「財産分与」といえばこの清算的財産分与を指します。

財産分与の3つの種類

清算的財産分与

清算的財産分与は財産分与の中核となるもので、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を離婚時に清算して分け合うことです。夫が会社員で妻が専業主婦の場合でも、妻の家事・育児による貢献があったからこそ夫が安心して仕事に専念でき、財産を築くことができたと考えられます。

この清算的財産分与は、離婚原因がどちらにあるかに関係なく認められます。たとえ不倫をした有責配偶者からの請求であっても、婚姻期間中に築いた財産については2分の1の権利があるとされています。

扶養的財産分与

扶養的財産分与は、離婚によって夫婦の一方が経済的に困窮することが明らかな場合に、経済的自立を支援する目的で認められる財産分与です。ただし、離婚後は夫婦がそれぞれ自立して生活することが原則のため、扶養的財産分与が認められるのは例外的なケースに限られます。

認められる可能性があるのは、長年専業主婦でありすぐに経済的自立ができない場合、幼い子どもを養育するためフルタイムの仕事に就けない場合、高齢や病気のため就職が困難な場合などです。支払い期間は通常半年から3年程度で、一定期間後の経済的自立を前提としています。

慰謝料的財産分与

慰謝料的財産分与は、慰謝料請求としての性質を持つ財産分与のことです。本来、慰謝料と財産分与は別々の制度ですが、どちらも金銭の支払いが問題となるため、実務上は慰謝料を含めて「財産分与」として処理されることがあります。

配偶者の不倫やDV、モラハラなどが離婚原因となった場合に、慰謝料を別途請求するのではなく、財産分与に慰謝料分を上乗せして解決を図る方法です。当事者が「慰謝料の支払い」という文言を離婚協議書に明記したくない場合などに活用されます。

財産分与の対象となる財産・ならない財産

対象となる共有財産

財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦の協力によって形成・維持された「共有財産」です。重要なのは、財産の名義ではなく実質的な判断であることです。夫名義の財産であっても、妻の家事・育児の貢献があって築かれた財産であれば、財産分与の対象となります。

具体的には、不動産(マイホーム、マンション、土地など)、預貯金、株式・投資信託、自動車、生命保険の解約返戻金、退職金、家具・家電製品などが含まれます。特に退職金については、婚姻期間に対応する部分のみが財産分与の対象となります。

対象とならない特有財産

一方、財産分与の対象とならないのは「特有財産」です。これは、婚姻前から所有していた財産や、婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産のことです。

具体例としては、婚姻前の預貯金、相続や贈与によって取得した財産、婚姻前に購入した不動産、個人的な趣味のコレクション(夫婦の協力なく形成されたもの)などがあります。ただし、婚姻前の財産であっても、婚姻期間中に夫婦の協力によって価値が維持・増加した部分については、財産分与の対象となる場合があります。

財産分与の割合と基準

2分の1ルールの原則

財産分与における基本的な分割割合は「2分の1」です。これは、夫婦の婚姻期間中の貢献度は等しいと考えられているためです。専業主婦で収入がない場合でも、家事・育児・介護などの家庭内労働が財産形成への重要な貢献として評価されます。

裁判所の実務においても、夫婦双方が働いているケースでも、一方が専業主婦(主夫)であるケースでも、原則として財産を2分の1ずつに分けるよう命じられることが多くなっています。この2分の1ルールは、財産の名義や収入の多寡に関係なく適用されます。

2分の1ルールが修正されるケース

ただし、すべてのケースで機械的に2分の1で分割されるわけではありません。特別な事情がある場合には、分割割合が修正されることがあります。

例えば、一方配偶者が特殊な技能や資格を活かして高額な収入を得ており、他方配偶者の貢献が相対的に小さいと認められる場合、事業を営んでいる配偶者が個人的な才覚によって財産を大幅に増加させた場合、一方配偶者が浪費やギャンブルによって財産を減少させた場合などです。

不倫・浮気があった場合の財産分与

財産分与と慰謝料は別制度

配偶者の不倫や浮気が発覚して離婚に至る場合、多くの方が「財産分与の割合が変わるのではないか」と考えられますが、実際にはそうではありません。財産分与は夫婦が協力して築いた財産の清算であり、離婚原因とは別の問題として扱われるからです。

裁判例でも、不倫をされた配偶者Xが配偶者Aと離婚する際の財産分与について、特段の事情がない限り、財産分与とは別個に慰謝料請求をするものとされています。つまり、不倫があったからといって財産分与の割合が有利になるわけではないのです。

慰謝料は別途請求可能

ただし、不倫・浮気による精神的苦痛に対する慰謝料は、財産分与とは別に請求することができます。不倫慰謝料の金額は、婚姻期間の長さ、不倫期間、不倫の態様、夫婦関係への影響度、収入・資産状況などを総合的に考慮して決められます。

具体的な裁判例では、不倫された配偶者が精神的苦痛を受けた場合の慰謝料として200万円、不倫相手に対しては150万円といった金額が認められるケースがあります。重要なのは、財産分与と慰謝料は性質が異なる制度であり、両方を適切に請求することで公平な解決を図ることができるという点です。

不倫・不貞の慰謝料額に関しては、以下の記事で詳しく解説をしています。併せてお読みください。

財産分与の手続きの流れ

STEP
財産の調査と評価

財産分与を適切に行うためには、まず夫婦の財産を正確に把握する必要があります。相手方が財産を隠している可能性がある場合は、財産開示を求めることができます。

不動産については不動産鑑定評価、株式については時価評価、生命保険については解約返戻金の確認など、各財産の適正な価値を算定することが重要です。退職金については、現時点で退職した場合の支給額を基準に、婚姻期間に対応する部分を計算します。

STEP
協議による財産分与

財産分与の手続きは、まず夫婦間の協議から始まります。離婚前に財産分与について話し合って合意し、離婚と同時に実行することも、離婚後に改めて財産分与を請求することも可能です。

協議で合意に達した場合は、後のトラブルを防ぐため、合意内容を離婚協議書として文書化し、できれば公正証書にしておくことがベターです。特に不動産の譲渡や長期間にわたる分割払いが含まれる場合は、公正証書にしておくことで強制執行が可能になります。

STEP
調停・審判による解決

夫婦間の協議で合意に達しない場合は、家庭裁判所に財産分与の調停を申し立てることができます。調停では、調停委員が仲介して話し合いを進め、合意を目指します。

調停でも合意に達しない場合は、家庭裁判所の審判によって財産分与の内容が決定されます。審判では、裁判官が夫婦双方の主張を聞き、証拠に基づいて財産分与の可否、金額、方法を判断します。なお、財産分与の請求は離婚時から2年以内に行わなければならないという期間制限があるため、注意が必要です。

財産分与でよくあるトラブルと対策

財産隠しへの対応

財産分与において最も多いトラブルの一つが、相手方による財産隠しです。離婚を見据えて預貯金を別口座に移したり、現金化して隠したり、第三者名義にしたりするケースがあります。

このようなトラブルを防ぐには、早期に財産の全体像を把握し、必要に応じて預金口座の取引履歴を確認することが重要です。悪質な財産隠しが発見された場合は、隠した財産も含めて財産分与の対象とするよう主張することができます。

住宅ローンが残っている不動産の取扱い

マイホームに住宅ローンが残っている場合の財産分与は特に複雑です。不動産の時価がローン残高を上回る場合(アンダーローン)は、その差額が財産分与の対象となります。一方、ローン残高が時価を上回る場合(オーバーローン)は、財産分与の対象財産はゼロとなります。

住宅ローンの債務者変更や連帯保証人の問題、不動産の名義変更なども複雑な手続きが必要になるため、専門家のアドバイスを受けながら進めることが賢明です。

税務上の注意点

財産分与には税務上の注意点もあります。現金や預貯金の分与では基本的に税金はかかりませんが、不動産を分与する場合は注意が必要です。

不動産を渡す側には、時価で譲渡したものとみなされ譲渡所得税が課される可能性があります。不動産をもらう側には、登録免許税や固定資産税がかかります。また、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与として不動産をもらった場合は、不動産取得税が課税されるリスクもあります。

まとめ

離婚時の財産分与は、結婚生活で築いた財産を公平に分け合う重要な制度です。基本的には2分の1の割合で分割され、専業主婦であっても家事・育児の貢献が適切に評価されます。

配偶者の不倫や浮気があった場合でも、財産分与の割合は原則として変わりませんが、慰謝料は別途請求することができます適切な財産分与を実現するためには、対象財産の正確な把握、適正な評価、そして法的な知識に基づいた交渉が不可欠です。

複雑なケースや高額な財産が関わる場合は、専門的な法律知識と豊富な経験を持つ弁護士に相談することをお勧めします。離婚は人生の重要な転機であり、その後の生活基盤を左右する財産分与について、後悔のない適切な解決を図ることが大切です。

弊所では不貞・不倫による離婚のご相談をLINEで承っています。本記事で取り扱った財産分与など、離婚にあたっての法的な疑問点がある方はぜひお気軽にご相談ください。

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