独身と騙されて関係を持ってしまったら慰謝料請求できる?貞操権侵害と不貞慰謝料請求との関係について

独身と騙されて関係を持ってしまったら慰謝料請求できる?貞操権侵害と不貞慰謝料請求との関係について

本記事の監修弁護士:浅尾 耕平

2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。

2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。

この記事のまとめ

貞操権とは、「性的な関係を結ぶ相手を自分で選ぶ権利」や、「自己の意思に反して性的な侵害を受けない権利」として、性的自己決定権の一部といえ、人格権の一部と解釈されており、この権利が侵害された場合は慰謝料請求が可能です。

実務上の典型例は、既婚者の交際相手に独身だと騙されて肉体関係を持ったケースです。 貞操権侵害による慰謝料相場は50万円から200万円程度で、関係の期間、悪質性、精神的苦痛の程度により金額が決まります。

慰謝料請求には、不貞行為や欺罔行為の事実、それによる精神的苦痛の立証が重要です。メールやLINE、写真、第三者の証言などが有効な証拠となります。

一方で、「既婚者と知らずに不倫していた」ことで相手方の配偶者から逆に訴えられるリスクもあります。貞操権の概念は複雑で個別判断が必要なため、専門的な法的アドバイスを受けることが重要です。

目次

貞操権とは何か

貞操権とは、「貞操」を守る権利であり、現代では、性的な関係を結ぶ相手を自分で選ぶ権利や、自己の意思に反して性的な侵害を受けない権利として、性的自己決定権の一部と言えます。この権利は人格権の一部と解釈されており、他者による侵害があった場合には損害賠償請求が可能となります。

貞操という概念は歴史的には女性(妻)についてのみ観念されていたものですが、現代の解釈では、貞操権は性別に関係なく男女平等に保護される権利とされており、女性だけでなく男性の貞操権も同様に法的保護の対象となり、侵害があった場合には不法行為等による救済の対象となると考えられています。

貞操権侵害が問題になるケース

貞操権侵害は、不法行為として、慰謝料請求の根拠となり得ます。

貞操権侵害による請求の要件は、相手方の違法な行為により自らの意思に反して肉体関係を持ったこと、です。

こう捉えると、さまざまなケースで貞操権侵害が問題になりそうですが、実務上問題になるのは、既婚者が独身と偽って関係を持ったケース、または、既婚者でもすぐ離婚するなどと言って結婚すると騙して関係を続けたケースなど、婚姻の可能性に関する期待が裏切られた場合にほぼ限られる、というのが実情です。

例えば、職業を偽って(会社経営者や医者であるなどとだまして)関係を持った、というケースは貞操権はほぼ問題になっていません。その意味で、実務上は単なる性的自己決定権というだけではなく、婚姻の可能性があることを前提として肉体関係を持つかどうかの自己決定にかかる権利を、貞操権として保護していると考えられるでしょう。

これは、貞操が本来婚姻関係を保護するための概念であって、現在も民法上婚姻している配偶者に対する義務として解釈されていることから(貞操義務・民法770条1項1号)、自然なことと言えます。

独身者が既婚者である交際相手に「独身である」と騙された場合

交際相手が既婚者であることを隠し、独身だと偽って肉体関係を持った場合、自身の貞操権が侵害されたとして慰謝料請求が可能です。

特に、結婚を前提とした真剣な交際だと思い込まされていた場合、将来への期待や人生設計も大きく狂わされることになります。このような精神的苦痛や人生への影響も、貞操権侵害による損害として考慮されます。

黙っているだけでも騙したことになりうる

独身と偽られた、というためには、特に積極的に独身であることをアピールしたり、結婚する約束をしたり、などといった事情までは必要ありません。婚姻関係を黙っていたというだけでも、具体的な状況によって、相手方が独身であって結婚できるかもと期待させる状況にあって、それを前提に肉体関係を持った、という場合には、貞操権侵害が認められることがあります。

最近ではマッチングアプリで問題になることが多い!

このようなケースが問題になりがちなのが、マッチングアプリで始まった関係です。マッチングアプリは、相手方のことをよくわからずに関係が始まってしまいますが、関心を持ってもらうために、自身の事情を偽りがちでもあります。そのため、既婚者が独身と偽っていることは、決して少なくなく、貞操権侵害となりうる事態が発生しがちです。

マッチングアプリに関する問題については、以下の記事も参考になさってください。

相手が既婚者であるとわかっていたが、すぐに離婚して結婚してくれると騙された場合

相手方が既婚者であることはわかっていたが、離婚して結婚してくれる約束され、それと信じて関係を持つ、と言うことは少なくないでしょう。そして、その結婚してくれるという約束が嘘だった場合には、騙されて結婚を期待したことで、肉体関係をもったわけですから、貞操権侵害が成立しそうです。

しかし、他方で、この場合はわかっていて不倫を行なっていることになるため、相手方配偶者からすれば、完全な不貞行為の加害者になるわけです。不貞行為と言う違法行為を故意で行なっていながら、それによる被害を訴えると言うのは原則として許されません

そのため、このようなケースでは、より詳細な事情を踏まえて、不貞行為に至った事情がもっぱら婚姻に入ると期待させた者の行為の悪質性や被害の重大さなどと、不貞行為加害者としての責任を比較考慮し、貞操権侵害を訴えた者が本当の被害者であり、救済の必要性があると言える場合にのみ、請求が認められます

請求としては非常に難しいケースになると言うことですが、実際に被害が小さくないことも多いため、しっかりと弁護士と相談することが大事になります。

貞操権侵害による慰謝料の相場

貞操権侵害による慰謝料の金額は、侵害の態様や被害の程度により大きく異なります。

独身だと騙されて関係を持った場合の慰謝料は、50万円から200万円程度が相場となります。関係の期間、結婚の約束の有無、妊娠・中絶の有無、相手の欺罔行為の悪質性などにより金額が決まります。

結婚を具体的に約束されていた場合、同棲や将来の計画を立てていた場合、妊娠や中絶があった場合などは、より高額な慰謝料が認められる可能性があります。

また、そのような関係を長期に渡り続けたことにより、女性の婚姻や出産の機会が奪われてしまったという場合にも高額な慰謝料が認められることがあります。裁判例でも、特に出産を希望していた女性を結婚すると騙し、結果として婚姻する機会を長期間奪ったというケースで、500万円程度の賠償が認められたケースがあります。

慰謝料額を左右する要因

貞操権侵害の慰謝料額を決定する主な要因は以下の通りです。

増額される要因

  • 肉体関係の期間が長い
  • 交際相手が既婚であることを隠すために行った行動の悪質性が高い
  • 騙された方が、交際前に積極的に婚活をしていた、結婚の準備として離職や引っ越しをしたなど婚姻への高い期待があった
  • 被害者の精神的苦痛が深刻
  • 加害者の社会的地位や年収が高い
  • 妊娠・中絶があった
  • 性病感染があった

減額される要因

  • 早期の謝罪と反省の態度
  • 被害者側にも一定の落ち度(既婚者であることを知っていた、知ることができた)などがある
  • 加害者の経済状況が困窮している
  • 関係が短期間で終了している

貞操権侵害の立証方法

貞操権侵害による慰謝料請求を成功させるためには、適切な証拠による立証が必要です。

証拠の例

独身だと騙された場合の証拠例
  • 「独身だ」「結婚していない」などの明確な虚偽説明のメールやLINE
  • 結婚を約束していた内容の記録
  • 独身だと信じる根拠となった相手の言動
  • 婚活パーティーや婚活サイト・マッチングアプリでの出会いの記録
  • マッチングアプリなどのプロフィールに独身と記載がある
  • 将来の計画について話し合った記録
  • 相手が結婚指輪を外していた証

どのような事項が損害になるか

貞操権侵害により受けた精神的苦痛を立証するためには、以下の証拠が有効です。

貞操権侵害による精神的苦痛の立証に有効な証拠
  • 医師の診断書、カウンセリングの記録
  • 日記
  • 友人や家族への相談記録(LINEトーク履歴など)

うつ状態、不眠、食欲不振などの具体的な症状があれば、医療機関を受診して診断書を取得することをお勧めします。

貞操権侵害での慰謝料請求の注意点

貞操権侵害による慰謝料請求を行う際は、以下の点に注意が必要です。

訴えられるリスクがある(重要)

貞操権侵害が問題になるケースは、多くの場合、被害者となる方は、知らずに不倫を行っていたことになります。そのため、相手方の配偶者から不貞行為の加害者として慰謝料請求を受ける可能性があります

知らなかったのだから、不貞慰謝料を支払う義務はないといいたいところですが、不貞慰謝料は知らなかった場合でも、知ることが容易に可能だった、すなわち少し調べれば相手方が婚姻していることが分かっただろう、という場合にも成立してしまいます。

そのため、貞操権侵害で慰謝料を請求したいという場合、相手の婚姻関係を知ることができなかった理由、相手が騙していたと言える証拠などを慎重に検討する必要があります。また、訴えられるリスクを減らすため、いかに相手方の配偶者には知られずに請求交渉を行うか、もポイントになってきます

証拠収集の注意点

慰謝料の請求のためには、証拠の収集が必須です。

LINEのトーク履歴などは非常に強力な証拠になりえますが、その収集方法の適法性については以下の記事にて解説しています。

弁護士に相談するメリット

ここまで貞操権の概要や、慰謝料について、証拠の収集方法等について解説してきました。非常に難しい内容で、専門的な判断が必要なことがわかるかと思います。そのため適切な慰謝料請求には、弁護士へ相談することを強くおすすめしています。

請求の妥当性判断

ご自身のケースで貞操権侵害が認められるか、どの程度の慰謝料が妥当かについて、法的な観点、過去の判例や実務経験に基づいて適切な判断を受けられます。

効果的な証拠収集

どのような証拠が重要で、どのように収集・整理すべきかについて具体的なアドバイスを受けることができます。また、違法な証拠収集を避け、法的に有効な証拠を適切に保全する方法についても指導を受けられます。

交渉・手続きの代行

複雑な法的手続きを弁護士が代行することで、あなたの時間的・精神的負担を大幅に軽減できます。また、相手との交渉においても、法的根拠に基づいた説得力のある主張により、適正な解決を図ることができます。

総合的な解決策の提案

慰謝料請求だけでなく、離婚や親権、財産分与など関連する問題についても総合的なアドバイスを受けることができます。複数の問題を一体的に解決することで、より良い結果を得ることが可能になります。

よくある質問・注意点

貞操権は男性にもありますか?

はい、貞操権は性別に関係なく男女平等に保護される権利です。妻の不倫により夫の貞操権が侵害された場合や、独身だと偽った既婚女性に騙された男性の場合も、同様に慰謝料請求が可能です。

請求相手が外国人の場合はどうなりますか?

相手が外国人でも、日本国内での行為については日本の法律が適用され、貞操権侵害による慰謝料請求が可能です。ただし、相手が出国してしまった場合は請求が難しくなります。

結論

貞操権侵害は、性的な自己決定権ですが、実際には、結婚してくれると期待していたのに、それが嘘だった、騙されたと言う場合に慰謝料請求権が可能になります。独身だと騙された場合や、既婚者であると知っていたけれどすぐに離婚すると騙された場合など、様々なケースがあり得ますが、いずれも相手方配偶者から逆に訴えられるリスクもあり、慎重な検討が必要です。

50万円から200万円、事情によってはそれ以上の高額な慰謝料請求があり得ます。

一人で悩まず、経験豊富な弁護士に相談することで、あなたの権利を適切に守ることができます。貞操権という概念は複雑で、個別の状況に応じた対応が必要ですが、適切な手続きにより侵害された権利を回復することは十分に可能です。

弊所では、不貞問題について豊富な実績を持つ弁護士が、あなたの状況に最適な解決策をご提案いたします。LINEであればいつでも何回でも無料でご相談いただけます。辛い思いをされている方は、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

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