
本記事の監修弁護士:東山 詩奈
2012年12月弁護士登録。愛知県内の法律事務所に勤務し、企業法務のほか、交通事故、不動産、離婚・相続のなどの多くの一般民事事件の訴訟・紛争対応に従事。2015年三菱UFJ信託銀行株式会社に入社。国内外の法規制対応、コンプライアンス対応、海外子会社の経営管理などを担当。2024年ライトプレイス法律事務所に入所。
パートナーが不倫しているようだが肉体関係はなさそう、という場合でも慰謝料請求が可能なケースがあります。
例えば、長期間に及ぶ頻繁な連絡、デートの繰り返し、愛情表現を含むメッセージのやり取り、将来を約束するような関係などが該当しますが、不法行為として認定される難易度が非常に高く、かつ、肉体関係がある場合と比較して慰謝料額は低くなる傾向があります。慰謝料の相場は、一般的に10万円から100万円程度です。
慰謝料請求を成功させるためには、メールやLINEの記録、デート時の写真、通話履歴、第三者の証言などの証拠が重要です。また、夫婦関係が破綻していない状態で配偶者が第三者と親密な関係を築いていたこと、及び、平穏な夫婦生活が脅かされたことの立証が必要です。
このようなケースでの慰謝料請求は法的判断が難しいため、専門的な知識を持つ弁護士への相談をお勧めします。
肉体関係の法的定義-「どこからが肉体関係?」
不貞行為の慰謝料請求において、どのような行為が「肉体関係」に該当するのかは、重要なポイントです。裁判例を踏まえると、以下のような線引きが存在すると考えられます。
法的に認定される肉体関係
明確に肉体関係が認定される行為
- 性行為(膣性交)
グレーゾーンとされる行為
- オーラルセックス、ハンドセックスなどの性的行為
- ラブホテルの利用
- 2人きりでの旅行、宿泊
肉体関係が認定されない行為
- キス(軽いものから深いものまで程度により判断)
- 抱擁やハグ(状況や頻度により判断)
- 手を繋ぐ行為
- 性的な写真・動画の送受信
判断の基準
裁判所は単純な身体的接触だけで判断せず、以下の要素を総合的に考慮して判断します。また、複数の行為や背景事情が組み合わさることで、総合的に判断すれば不法行為にあたるとして認定されることもあります。
- 不貞行為と判断されうる要素
- 親密な関係の有無
- 行為の性的な意味合い
- 継続性と計画性
- 社会通念上の不適切さ
肉体関係がない準不貞行為とは
「肉体関係」の定義についてお話したところで、肉体関係がなくても不貞行為として認められる場合はあるのでしょうか?
実際に認定される難易度は非常に高いのですが、「準不貞行為」と呼ばれ、配偶者以外の異性と社会通念上不適切とされる親密な関係を築くことが不貞行為として認められる場合があります。
不貞行為の典型例は肉体関係を伴うものですが、現代社会ではSNSやメッセージアプリの普及により、物理的な接触がなくても深刻な精神的結びつきを形成することが可能になっています。このような状況を受けて、裁判所も一定の条件下では肉体関係がない場合でも不貞行為に準ずる行為として不法行為責任を認定するケースが増えています。
重要なのは、単なる友人関係や同僚関係を超えて、配偶者としての独占的地位を脅かすような親密な関係が築かれているかどうかです。配偶者に対する精神的な裏切りがあり、夫婦関係の平穏が害されている場合には、不法行為責任が認定され、慰謝料請求の根拠となりえます。
慰謝料請求が認められる条件
肉体関係がないケースで慰謝料請求が認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
配偶者と相手方の間に、社会通念上不適切な親密さが存在するか
単なる友人関係を超えた、明らかに不適切な親密さが存在することが必要です。一時的な出来心ではなく、一定期間継続している関係であること、またその関係性が社会通念と照らし合せて深い関係と言えるかどうかが重要です。
- 頻繁な連絡(毎日の長時間電話、メッセージのやり取りなど)
- 二人きりでの外出の繰り返し
- 愛情表現や性的表現を含むメッセージのやり取り
- 配偶者に隠れて行われている関係
- 配偶者の存在を軽視するような内容の会話
- 数ヶ月から数年にわたる関係の継続
夫婦関係への具体的影響
また、配偶者と不倫相手の行為により、実際に夫婦関係に悪影響が生じていることが必要です。
夫婦関係への悪影響の例
- 配偶者が家庭を顧みなくなった
- 夫婦の会話が著しく減少した
- 家族行事への参加を拒むようになった
- 家事や育児への協力が減った
- 夫婦間の親密さが失われた
具体的な該当ケース
肉体関係がないケースでも慰謝料請求が認められた具体的なケースをご紹介します。
①長期間の密接な連絡
認定された事例
- 毎日3時間以上の電話を半年間継続
- 深夜から早朝まで頻繁にメッセージ交換
- 休日のほとんどを連絡に費やしている状況
- 家族との時間を犠牲にして相手との連絡を優先
- 仕事中も頻繁に連絡を取り合っている状態
このような場合、夫婦関係への悪影響が明確に認められると考えられます。
②恋愛感情を伴う関係
問題となりうる行為
- 「愛している」「君なしでは生きていけない」などの愛情表現
- 「離婚したら一緒になろう」などの将来を約束する発言
- 相手の写真を大切に保管している行為
- 記念日を設定して祝っている関係
- お互いを恋人として認識している状況
このような関係は、配偶者との婚姻関係を軽視し、第三者との間に事実上の恋愛関係を築いているものとして評価されると考えられます。
③配偶者に隠れて親密な関係を構築している場合
問題となりうる行為
- 配偶者に隠れて頻繁に会っている
- 配偶者には内緒の贈り物をしている
- 二人だけの秘密を共有している
- 配偶者を欺いて会う時間を作っている
隠れて行われる関係は、それ自体が配偶者に対する裏切り行為であり、不適切な関係の証拠となります。
慰謝料の相場と金額の決まり方
肉体関係がないケースの慰謝料相場は、肉体関係がある場合と比較して一般的に低額となります。
一般的な相場
肉体関係なしの精神的不貞行為の場合、慰謝料相場は10万円から100万円程度が一般的です。関係の深刻さや継続期間により幅がありますが、肉体関係がある場合の3分の1から2分の1程度の金額になることが多いです。軽微な場合は数十万円程度、悪質で長期間にわたる場合でも100万円を超えることは稀です。
金額を決定する要因
慰謝料額の決定には複数の要因が考慮されます。関係の継続期間が長いほど、また接触の頻度が高いほど慰謝料額は高くなります。愛情表現の程度、将来の約束の有無、配偶者への隠蔽の悪質性なども重要な考慮要素です。
さらに、夫婦関係への具体的影響の程度、被害者の精神的苦痛の深刻さ、加害者の反省の態度、経済的能力なども金額決定に影響します。家庭内での地位や役割、子どもへの影響なども考慮される場合があります。
必要な証拠の収集方法
肉体関係がないケースで慰謝料請求を行う場合でも、適切な証拠収集が不可欠です。
証拠の例
- メッセージ・通信記録
- 通話記録・通話時間
- 親密な関係を示す写真・動画
- 第三者の証言
不貞行為の証拠収集に関しては、以下の記事でも解説しておりますので併せてお読みください。

慰謝料の請求手続きの流れ
通常の慰謝料請求と同様の手続きとなります。
まず収集した証拠を時系列で整理し、不適切な関係の存在と夫婦関係への影響を明確に示せるようにします。その上で、具体的な慰謝料額を算定し、法的根拠とともに通知書を作成します。請求の理由、証拠の概要、求める損害賠償額を明確に記載することが重要です。
作成した通知書を内容証明郵便で相手方に送付します。内容証明郵便は、いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるため、後の法的手続きにおいて重要な証拠となります。
相手方が慰謝料請求に応じない場合や、減額を求める場合には、示談交渉を行います。肉体関係がない場合は相手方が責任を否定したり、慰謝料金額の減額を求めて争ってくる可能性が高いため、証拠に基づいた説得力のある交渉が必要です。感情的にならず、冷静に法的根拠を示しながら交渉を進めることが重要です。
示談交渉で解決しない場合は、家庭裁判所での調停や地方裁判所での訴訟手続きを検討します。肉体関係がない場合は、不法行為責任の立証が困難なケースもあるため、十分な証拠と法的戦略を準備してから手続きに臨むことが重要です。
請求時の注意点とリスク
肉体関係がない不貞行為の慰謝料請求には特有の注意点とリスクがあります。
1.立証の困難性
不貞行為の典型例である肉体関係を有するケースと比較すると、その立証難易度は非常に高いと考えられています。
立証の困難性に関する主な課題
- 不適切な関係の存在を客観的に証明する必要がある
- 「単なる友人関係であった」などの相手方の反論に対する十分な反証が必要
- 曖昧な証拠では請求が認められない可能性がある
- 夫婦関係への具体的な影響を立証する必要がある
2.慰謝料額の限界
前述したとおり、肉体関係がある場合と比較して、3分の1から2分の1程度の金額が慰謝料相場の目安となりますので、どうしても慰謝料額の相場は低い傾向にあります。
3.相手方からの反訴リスク
さらに、相手方から「言いがかり」として逆に訴えられるリスクも考慮すべきでしょう。
想定される主な反訴リスク
- 名誉毀損による損害賠償請求
- 精神的苦痛を理由とした慰謝料請求
- プライバシー侵害による賠償請求
- 根拠のない請求としての反論
弁護士に相談するメリット
上記の通り、肉体関係がない場合の慰謝料請求は実際に請求すべきかどうかの判断が難しいため、ご検討されている場合は弁護士へ相談することをお勧めしています。
弁護士ができること
- 収集した証拠の法的評価
- 慰謝料請求が認められる可能性の判断
- 請求困難な案件の早期判断
- 追加で必要な証拠のアドバイス
- 現実的な解決見込みの提示
- 交渉や手続きの代行
弁護士に相談することで、慰謝料請求すべきかどうかの客観的なアドバイスを受けることができ、ご自身で検討するよりもスムーズに判断ができます。
まとめ – 肉体関係の証拠がない場合の慰謝料請求は困難。本当に請求できるか?を判断したい場合は弁護士に相談を。
肉体関係がない場合でも、一定の条件を満たせば慰謝料請求は可能ですが、そのハードルは高く、十分な準備と専門的な判断が必要です。
重要なのは、①単なる友人関係を超えた不適切な親密さが存在すること、②夫婦関係に具体的な悪影響が生じていること、③それらを証明する客観的な証拠があることです。慰謝料額は肉体関係がある場合より低くなりますが、精神的苦痛に対する賠償を受けることは可能です。
請求すべきかお悩みの方は、一人で判断せず、経験豊富な弁護士にご相談ください。当事務所では、豊富な実績を持つ弁護士により、あなたの状況を詳しく伺い、最適な解決策を一緒に考えさせていただきます。LINEでご自身のタイミングでご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。