協議離婚で後悔しない慰謝料の決め方|弁護士が教える交渉術

協議離婚で後悔しない慰謝料の決め方|弁護士が教える交渉術

本記事の監修弁護士:浅尾 耕平

2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。

2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。

この記事のまとめ

協議離婚は、離婚届を出せば成立する、もっとも簡単な離婚の方法です。しかし、例えば不倫が原因の離婚で会っても、離婚しただけでは慰謝料の請求はできません。 慰謝料も当事者同士で合意する必要がありますが、はっきりした算定方法があるわけではないため、多くの場合交渉が必要です。適切な慰謝料を得るためには、証拠の確保が重要です。また、慰謝料と養育費・財産分与の違いや、合意後の支払いを確実にする方法、税金の取り扱いについても知っておきましょう。

当事者同士での話し合いにより合意するのが基本ですが、慰謝料の交渉には法的知識も大切です。支払いの確保まで考え、後悔のない離婚になるようにしましょう。

1.協議離婚とは?基本的な仕組みと特徴

協議離婚の法的位置づけ

協議離婚は、日本の民法で定められた離婚方法の一つで、最も一般的な離婚の形態です。民法第763条に基づき、夫婦の合意のみによって離婚が成立する制度となっています。

(協議上の離婚)
第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

協議離婚の最大の特徴は、当事者のみで離婚手続きが完了することです。夫婦が離婚について合意し、離婚届に双方が署名・捺印して市区町村役場に提出するだけで法的に離婚が成立します。日本の離婚全体の約90%がこの協議離婚によるものとされています。

協議離婚は手続きが簡単である反面、離婚条件について明確な取り決めがなされないまま離婚が成立してしまうリスクもあります。特に慰謝料や財産分与、養育費などの金銭的な問題や、子どもの親権・監護権に関する取り決めが曖昧なまま離婚してしまうケースが少なくありません。

離婚までは色々と協議しても離婚が成立してしまうと、話し合いの機会を持つのが難しくなることも少なくありません。大事な事項を合意しないまま離婚となると、その後困ることになります。

協議離婚のメリットとデメリット

メリット

  • 手続きが簡単で迅速:裁判所を介さないため、手続きが簡単で時間も短縮できます。
  • 費用負担が比較的少ない:弁護士に依頼しない場合、離婚届の提出で完了するため、費用負担がありません。
  • プライバシーが守られる:裁判所の記録に残らないため、離婚の詳細が公になりにくいです。
  • 当事者の意思を尊重した解決が可能:裁判所の判断ではなく、当事者同士の合意に基づいて条件を決められます。

デメリット

  • 交渉力の差が結果に影響する:経済力や交渉力の差によって、不利な条件で合意してしまうリスクがあります。
  • 強制力が弱い:口頭での約束だけだと、離婚後に約束が守られないことがあります。
  • 感情的な対立により話し合いが難航する可能性:特に慰謝料の交渉は感情的になりやすく、合意に至らないケースも多いです。
  • 専門的な知識不足による不利益:法的知識がないまま交渉すると、適正な慰謝料や財産分与を受けられない可能性があります。

協議離婚での慰謝料交渉を成功させるためには、これらのメリット・デメリットを理解した上で、適切な準備と交渉戦略を立てることが重要です。

2.慰謝料の基本:意味・根拠・請求できる場合

慰謝料とは何か?

慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。離婚における慰謝料は、配偶者の不貞行為やDVなどの不法行為、またはそうした行為により離婚せざるを得なくなったことなどによって被った精神的苦痛に対する賠償とするものです。

法的根拠としては、民法第709条に基づいています。これらの条文により、精神的苦痛に対しても金銭による賠償を請求できることが定められています。

協議離婚における慰謝料は、離婚の原因を作った側(有責配偶者)が、精神的苦痛を受けた側に支払うものです。重要なのは、単に「離婚したから慰謝料が発生する」わけではなく、法的に認められる離婚原因があって初めて慰謝料請求の根拠が生まれるという点です。

慰謝料は賠償金という性質上、養育費や財産分与とは明確に区別されます。養育費は子どもの生活費として、財産分与は婚姻中に築いた財産の清算として支払われるものであり、これらは慰謝料とは別個に請求できるものです。

慰謝料請求の根拠となる事由

慰謝料請求の根拠事由説明
不貞行為(浮気・不倫)があった場合配偶者が婚姻関係にある間に第三者と肉体関係を持った場合。さらに不貞行為の相手(第三者)に対しても慰謝料を請求できる可能性があります。
DV(家庭内暴力)があった場合身体的暴力だけでなく、精神的暴力(モラルハラスメント)や経済的虐待なども含まれます。
悪意の遺棄があった場合正当な理由なく家を出て行く、生活費を渡さないなど、配偶者としての義務を果たさずに家族を捨てるような行為は悪意の遺棄として慰謝料請求の対象となります。
アルコール・ギャンブル依存症などによる著しい生活破壊依存症そのものではなく、それによって家庭生活が著しく破壊された場合に慰謝料請求が認められることがあります。
性生活の拒否が長期間継続した場合正当な理由なく長期間にわたり性生活を拒否し続けることは、夫婦の本質的な義務の不履行として慰謝料請求の根拠となる可能性があります。
その他、婚姻関係を継続し難い重大な事由がある場合上記以外にも、信頼関係を著しく損なうような行為があれば、慰謝料請求の根拠となる可能性があります。

協議離婚の場合、これらの事由について当事者間で認識が一致していれば慰謝料の支払いに合意できますが、認識が異なる場合は交渉が難航することも少なくありません。その場合は証拠の収集や専門家への相談が重要になります。

3.協議離婚での慰謝料の決め方

慰謝料の相場と算定要素

協議離婚における慰謝料は、当事者間の合意で自由に決められますが、一般的な相場を知っておくことは交渉の参考になります。慰謝料の相場は離婚原因によって大きく異なります。

不貞行為(浮気・不倫)の場合

  • 一般的な相場:100万円~300万円程度
  • 複数の相手がいた、婚外子を作っていたなど重大な場合:300万円~500万円程度
  • 社会的影響が大きい場合(公然と不倫関係を続けたなど):さらに高額になる可能性あり

DV(家庭内暴力)の場合

  • 精神的暴力のみの場合:100万円~200万円程度
  • 身体的暴力を伴う場合:200万円~500万円程度
  • 重篤な傷害を負わせた場合:症状・治療期間などによって判断され、場合によっては500万円以上の可能性もある

悪意の遺棄の場合

  • 遺棄期間や状況による:50万円~200万円程度

これらの相場はあくまで目安であり、実際の慰謝料額は以下の要素によって増減します。

慰謝料の変動要素
  1. 婚姻期間の長さ:一般的に婚姻期間が長いほど慰謝料は高くなる傾向があります。
  2. 有責行為の内容と程度:不貞行為の継続期間、DVの程度など、行為の重大性によって変わります。
  3. 子どもの有無と年齢:小さな子どもがいる場合、慰謝料が高くなることがあります。
  4. 経済状況:支払う側の支払能力も考慮されます。
  5. 社会的地位や影響:社会的な立場によって、精神的苦痛の度合いが変わることもあります。

なお、不貞慰謝料の相場に関しては以下の記事でも解説しておりますので併せてお読みください。

協議離婚での慰謝料交渉のポイント

協議離婚での慰謝料交渉を成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です:

1. 証拠の収集と整理 慰謝料請求の根拠となる有責行為の証拠を事前に収集しておくことが重要です。

  • 不貞行為の場合:メール・LINE・写真・目撃証言・探偵の調査書など
  • DVの場合:診断書・写真・録音・目撃証言など
  • 悪意の遺棄の場合:連絡履歴・生活費未払いの記録など

なお、不貞行為の証拠収集に関しては以下の記事でも解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。

2. 感情的にならず冷静に交渉する 慰謝料交渉は感情的になりがちですが、冷静に事実と証拠に基づいて交渉することが大切です。

3. 相場を把握した上で現実的な金額を提示する あまりに高額な慰謝料を要求すると交渉が決裂する可能性が高まります。相場を踏まえた現実的な金額設定が重要です。

4. 支払方法についても柔軟に検討する 一括払いが理想的ですが、相手の経済状況によっては分割払いを認めることで合意に至る可能性が高まります。

5. 他の離婚条件とのバランスを考える 慰謝料だけでなく、財産分与や養育費など他の条件とのバランスも考慮して総合的に交渉することが大切です。

6. 書面化を徹底する 合意内容は必ず書面(離婚協議書)にまとめ、双方が署名・捺印することで後のトラブルを防ぎます。さらに、公正証書の作成をすることが望ましいです。

7. 必要に応じて専門家を活用する 交渉が難航する場合は、弁護士や離婚カウンセラーなどの専門家に相談することも検討しましょう。

協議離婚での慰謝料交渉は、法的知識と交渉スキルが問われる場面です。十分な準備と戦略を持って臨むことが成功の鍵となります。

公正証書の作成により支払いを確実なものにする

合意書を作成すれば、法的には、慰謝料の請求権は確定します。しかし、合意しても任意で支払われない場合は、結局は裁判所に訴えて支払いを求めることが必要になってしまいます。

合意により、判決と同様に、強制的に回収ができる方法が、公正証書を作成することです。慰謝料等の金銭請求については、支払わない場合には強制執行してもらって構いませんと記載(強制執行受諾文言といいます)した公正証書を作っておけば、支払いがない場合には、直ちに強制執行できます。

強制執行とは、給与、預金、不動産などの財産から強制的に回収する手続きです。こうした強制執行の担保があることで、任意の支払いも促される効果も期待できます。

公正証書は、公証人役場で作成します。若干の費用と手間が必要になりますが、例えば長期の分割払いとなる場合などでは、将来の支払いを確保するため、公正証書を作成しておくことが重要になるでしょう。

弁護士に相談すべきタイミングと選び方

協議離婚での慰謝料交渉の際は、弁護士にサポートしてもらうのがベストです。弁護士にいつ相談すればいいかわからない…という方もいらっしゃるかもしれません。以下に主なタイミングをまとめていますので、ご参考にされてください。

弁護士に相談すべきタイミング
  1. 離婚を考え始めた初期段階:離婚の検討を始めた時点で相談することで、証拠収集や交渉戦略について早期にアドバイスを受けられます。
  2. 有責行為(不貞行為やDVなど)が確認された時点:証拠保全のアドバイスを受けるために、早めの相談が有効です。
  3. 相手が非協力的な態度を示している場合:話し合いが難しそうな場合は、早期に弁護士のサポートを受けることで、適切な法的手続きを進められます。
  4. 交渉が行き詰まった場合:自分たちの交渉で合意に至らない場合は、弁護士による交渉や調停への移行を検討します。
  5. 複雑な財産関係がある場合:不動産や事業、高額な資産がある場合は、専門家のアドバイスが特に重要です。
  6. 公正証書の作成が必要な場合:手間なく正確な内容で公正証書を作成するためには弁護士を使うことが確実な方法です。

4.まとめ:協議離婚での慰謝料交渉を成功させるために

覚えておくべき重要ポイント

協議離婚における慰謝料交渉を成功させるためのポイントを最終的にまとめます。

まとめ|協議離婚での慰謝料請求のポイント

1. 法的知識の重要性

  • 慰謝料の法的根拠と請求できる条件を理解する
  • 養育費や財産分与との違いを明確に認識する
  • 相場感を持って現実的な金額を設定する

2. 証拠の重要性

  • 有責行為の証拠を事前に収集・整理しておく
  • 証拠は日付や時間など時系列で管理する
  • デジタル証拠(メール、LINEなど)はバックアップを取っておく

3. 交渉の心構え

  • 感情的にならず、事実に基づいた冷静な交渉を心がける
  • 「すべてを得る」より「納得できる解決」を目指す
  • 長期的な視点で判断する(特に子どもがいる場合)

4. 合意内容の確実な履行のために

  • 合意内容は必ず書面化する(離婚協議書の作成)
  • 可能であれば公正証書にする(強制執行認諾文言付き)
  • 支払方法や期日を具体的に明記する

5. 専門家のサポート活用

  • 必要に応じて弁護士に相談する
  • 税金や社会保障の面でも専門家のアドバイスを受ける
  • 心理的サポートも必要に応じて検討する

協議離婚での慰謝料交渉は、適切な準備と知識、そして冷静な対応があれば、双方が納得できる形で解決できる可能性が高まります。裁判所を介さない分、自分たちでルールを決められる柔軟性もあります。

他方で、本人同士の協議では、法的に正しい形ではなく、力が強いものが一方的に解決内容を決めてしまう、ということも起こり得ますし、合意内容も不十分になってしまう恐れも多いです。

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