
本記事の監修弁護士:浅尾 耕平
2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。
2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。
不貞による慰謝料請求権は3年の時効で消滅します。 どれだけ不貞行為がはっきりしていても、どれだけ苦しい思いをしても、3年経てば請求はできなくなります。請求する側としては時効による終了は最も悔しい結果です。絶対に避けたいものです。
時効は、不貞の事実と相手(住所や連絡先まで含む。)が判明した時点から進行します。時効を中断させるには、訴訟提起や内容証明郵便の送付、相手方による債務の承認などの方法があります。時効となっているかどうかの判断は、専門的な判断が必要になります。
時効による悔しい結果を防ぐためには、早めに弁護士に相談し、適切な対応を検討していことが不可欠です。
1.はじめに
配偶者の不倫が発覚したとき、多くの方が強いショックを受け、怒りや悲しみの中で「慰謝料請求したい」と思われることでしょう。しかし、法的には慰謝料請求には“時効”という重大な制約があります。
この記事では、不貞慰謝料請求の時効期間や起算点、時効を止める方法など、後悔しないために知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
2. 不貞慰謝料請求の時効とは?
民法による規定

不貞行為による慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求とされ、民法第724条により3年間の消滅時効が定められています。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき
つまり、不貞の事実と相手(不倫相手)を知った日から3年以内に請求しなければ、慰謝料を請求する権利を失ってしまうのです。
また、不貞行為があってから20年間が経過した時も請求ができなくなります。こちらは、知ったか否かに関わらず、行為から20年経過した場合には、請求ができなくなります。
3. 3年の時効の起算点とは?いつから数え始めるのか
「不倫を知った日」とは具体的にいつを指すのでしょうか? 起算点の判断は、非常に重要なポイントです。
法的に、知った日とは、慰謝料請求が可能な程度に事実・相手方の情報を知った日のことです。そのため、不貞の事実及び相手方の名前がわかっても、住所や連絡先などがわからない場合には、まだ時効はスタートしません。
ただし、逆にいえば、相手の住所や連絡先まではっきり認識したら、そこから時効はスタートするため、放置しておくことはできません。
時効の起算点の具体例
状況 | 起算点の判断 |
---|---|
配偶者の不貞をLINEで発見した | LINEを見た日が起算点(ただし、相手方に連絡できる場合のみ) |
噂や友人からの情報のみ | 起算点とならない(確証がないため) |
探偵の報告書で不貞を確認 | 探偵報告書の受領日が起算点 |
不貞の証拠を掴んだが、相手方は源氏名しかわからない | 起算点とならない(請求できないため) |
4. 時効を中断させる方法
時効が迫っている、あるいは請求の準備中で時効が過ぎそうな場合、以下の方法で時効の進行を中断させることが可能です。もっとも有効な方法は、債務の承認であり、相手方に不貞による慰謝料支払い義務を認めてもらうことです(金額は決まってなくても良い)。
債務の承認がなく、相手方が否定している場合には時効になる前に、訴訟を提起しなければなりません。
時効中断の主な手段
方法 | 内容 |
---|---|
訴訟の提起 | 裁判所に訴訟を提起することで中断 |
内容証明郵便 | 請求の意思を示すことで、そこから6か月は時効が完成しない(その間に訴訟提起が必要) |
債務の承認 | 相手が「支払う意思がある」と認めた場合(メールや会話でも可) |
示談交渉の開始 | 事実を認めて、双方が慰謝料に関して話し合っている場合は、債務承認とみられるため。 |
時効完成したあとでも請求できる場合もある
知ってから3年経過すると時効が完成して、請求できなくなるのが原則です。しかし、重大な例外があります。それは時効完成後に、債務の承認をした場合は、完成済みの時効の援用ができなくなる、というケースです。
仮に3年以上経過していても、あらためて、不倫相手が不貞を認め、慰謝料を払うことを認めていれば、一度完成した時効の効果がなくなるのです。そのため、3年経ったから、と諦めることなく、支払い義務を認めたような発言がないか、あるいは、今からでも事実をあらためて認めさせる方法がないか、検討することが重要です。
5. 請求できる相手は誰?
不貞慰謝料請求の対象は、原則として以下の2者です。
- 不貞した配偶者
- 不貞の相手
※ただし、不倫相手が「既婚者であると知らなかった・知ることができなかった」場合には、不法行為が成立しない可能性があります。
6. 請求権を失わないためのチェックリスト
以下の項目を確認し、慰謝料請求のタイミングを逃さないようにしましょう。
- 不貞の証拠を確保しているか
- 起算点となる日付を明確に把握しているか
- 弁護士に相談済みか
- 時効になっていないか(示談交渉や内容証明で時効を止めているか)
なお、不貞行為の証拠収集については以下の記事で詳しく解説しています。こちらも併せてお読みください。
7. 慰謝料請求の具体的な流れ

不貞の事実を立証できる証拠を揃えることが第一です。証拠の収集自体、どうすればいいかわからないことも多いので、早めに弁護士に相談するのが得策です。
- ラブホテルや自宅の出入りを写した写真
- LINEやSNSのやり取り
- 探偵会社の調査報告書
- クレジットカードやICカードの利用明細
- 自白(録音、書面)
本件の事情を踏まえて、証拠を判断してもらい、請求額や方針を明確にしておきましょう。請求が可能かどうかは、弁護士に判断してもらうのがベストです。
- 内容証明での通知
- 示談交渉
- 裁判手続き(相手方が応じない場合)
8. よくあるQ&A|時効に関する素朴な疑問
- 配偶者が「謝るから許して」と言ってきたら?
-
その発言が記録されていれば、「債務の承認」となり、時効は中断する可能性があります。会話を録音・記録しておくことが大切です。法的に承認となりうるかは、具体的なやり取りの検討が必要です。
- 3年を過ぎた場合はもう無理?
-
原則は時効消滅している可能性がありますが、「知った時」をどう考えるかは、法的な判断になりますし、債務承認と捉えられる事情があるかもしれません。もしそうなら、請求の可能性があります。諦めずに弁護士に相談してください。
9. 不倫相手への慰謝料請求でも時効に注意
不倫慰謝料請求では、配偶者だけでなく、不倫相手にも同様に慰謝料を請求できます。しかし、不倫相手への請求でも、時効は別個にカウントされる点に注意が必要です。
よくある誤解
「配偶者に請求したから、不倫相手にはあとで請求しても大丈夫」と思いがちですが、これは大きな誤解です。
- 不倫相手への時効も「不貞相手を知った日」から進行
- 配偶者への請求とは別の時効管理が必要
- 同時に請求するか、早い段階で時効を中断させることが重要
※特に相手の素性(氏名・住所等)を知らず、判明に時間がかかる場合は、「判明した日=起算点」となることもあります。これも弁護士が適切に判断してくれます。
10. 弁護士に相談するベストなタイミングとは?
「まだ証拠が集まっていない」「金額の相場がわからない」という理由で弁護士への相談を後回しにしてしまう方も多くいますが、それは大きなリスクです。
なぜ早期相談が重要なのか?
- 時効のリスクを正確に把握できる
- 時効が間近に迫っている場合などでは、請求を維持するための適切な対策を取れる
- 自分のケースで最も有効な証拠の種類を知れる
- 証拠の収集方法が合法かどうかを確認できる
- 相手との交渉を専門家に任せられ、精神的負担が減る
- 内容証明の文面やタイミングも専門的にアドバイスしてもらえる
不倫問題に強い弁護士であれば、相談の段階から慰謝料請求の全体像を戦略的に設計してくれます。私どもではLINEで無料相談を受け付けています。パートナーが不倫している!と強く疑われる事情があれば、急ぎ相談するのがベストです。
11. まとめ|「3年」は案外すぐ過ぎます、放置せず“今すぐ”対応
慰謝料請求の時効は3年です。長いようですが、油断しているとすぐに過ぎてしまいます。そして一度時効が成立してしまえば、原則として、どれだけ不貞行為が悪質なものでも、もう請求はできません。
- 時効起算点【不貞行為を知った時】を見極め、必要なアクションをおくれずに行う
- 時効の中断方法を理解し、取れる対応を取る
- 証拠を確実に保管・整理する
- 早めに弁護士に相談する
不貞行為があったことははっきりしているのに、もう請求できない…というのが時効です。あなたの権利を守るためにも、相談するのは、「今すぐ」がもっとも正しいタイミングです。