
本記事の監修弁護士:浅尾 耕平
2010年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。大阪、東京に拠点を持つ法律事務所に所属。
労働、商事関係を中心に訟務活動を担当しつつ、国際カルテル事案、企業結合審査等競争法対応、総合商社、メーカー等の一般企業法務等に従事。
2015年から、国内大手調剤・ドラッグストアチェーン企業、及びAIソフトウェア事業会社のインハウスローヤーとして、法務・コーポレートガバナンス実務を企業内から経験。
2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。
配偶者が風俗に通っていた場合、法律上の不貞行為として認められる可能性があります。特に性交渉・性交類似行為を伴うサービスは不貞行為に該当し、配偶者への慰謝料請求や離婚理由となり得ます。
ただし、裁判所は一般的な不貞行為より軽く評価する傾向にあります。
具体的には、1〜2回程度の利用では慰謝料が数万円から30万円程度であったり、裁判上の離婚(民法770条)が認められない可能性が高いです。頻繁に通っている、多額の費用を使っている、反省がないなどの事情がある場合は、慰謝料の増額や離婚を認めてもらえる可能性が高まります。
弁護士という立場で相談者の方のお悩みを聞いていると、「配偶者が風俗に通っているが、これは不倫ではないか?」というご質問をいただくことがあります。
風俗に行くことは、法律上の不貞行為にあたるのでしょうか。
不貞行為の法的定義
民法770条1項では裁判で離婚が認められる理由の一つとして「配偶者に不貞な行為があったとき」を挙げています。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。引用:民法|e-Gov 法令検索 ※太字装飾は編集者によるもの
不貞行為とは「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と解釈されています。
重要なのは性交渉や肉体関係が中心ですが、判例によれば性交類似行為も不貞行為に準じる不法行為として認められることがあります。恋愛感情は不要で、一時的な関係でも性的関係があれば不貞行為となり得ます。
風俗通いは不貞行為になるか
風俗店の利用内容によって不貞行為になる場合とならない場合があります。
性交渉(本番行為)を伴う風俗店を利用していた場合は、その利用した事実を証明できれば不貞行為として認められる可能性が高くなります。また、性交類似行為を伴うサービスを提供している風俗店(デリヘル・ファッションヘルス等)も不貞行為と認められる可能性があります。
一方、性的サービスを伴わない接客・接待だけのお店(キャバクラ・ガールズバー等)は、法律上の不貞行為には該当しない可能性が高いです。
「風俗通い」の裁判での評価は低い?
裁判において、風俗に通っていたことによる慰謝料は、一般的な不貞行為より低額に評価される傾向があります。風俗店では客と従業員の間に恋愛感情や継続的な関係性がなく、男性側は自己の性欲を満たすために金銭を支払っているに過ぎません。「気晴らし」や「一時の遊び」という性質が強く、直ちに夫婦関係が破綻するとは限らないと考えられているためです。
慰謝料請求と離婚の可否
慰謝料の相場感と風俗店従業員への請求
性交渉や性交類似行為を伴う風俗店の利用が証明できれば、配偶者に対する慰謝料請求は可能と考えられます。ただし上述した通り、金額は一般的な不貞行為より低額になる傾向があります。
慰謝料の相場は1〜2回程度の利用で数万円〜30万円程度、頻繁な利用で50万円〜100万円程度です。また、以下のような事情があり、慰謝料の増額事由として認められれば慰謝料額は増える可能性はあります。
- 来店頻度が非常に多い
- 期間が長い
- 多額の出費
- 話し合いに応じない
- 反省していない
では、風俗店従業員への慰謝料請求はできるのでしょうか。
結論としては、非常に難しいと考えられます。従業員は客が既婚者かを問わずサービスを提供する立場にあり、婚姻状況を認識していない場合も多いと思われるためです。
風俗利用を理由に裁判上の離婚は可能か
1〜2回程度、性的サービスを伴う風俗を利用した程度では、離婚請求が棄却される可能性が高いと考えられています。
一方、前述した慰謝料増額事由と同様の事情がある場合は、民法770条1項5号が定める「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性が高くなります。
証拠の収集と請求の流れ
証拠の収集
風俗通いを理由に慰謝料請求や離婚を求める場合、証拠を集めることが重要です。有効な証拠は領収書やクレジットカード明細、LINEのやり取り、店舗に入店・退店した写真、通帳の記録などです。
証拠収集については、以下の記事でも解説しておりますのでご確認ください。

慰謝料請求の流れ
話し合いで解決しない場合は…
それでも解決しなければ…
風俗の相手に慰謝料請求できるか?
不貞行為が行われた場合、配偶者だけではなく、不貞相手にも慰謝料請求ができることがあります。風俗で不貞行為が行われた場合、その相手にも慰謝料請求できるのでしょうか?
一般的には、この請求は認められていません。慰謝料請求をするためには、不貞相手に違法行為についての責任(故意・過失)がなければなりませんが、風俗サービスとして行為を及んだ方は、客を自由に選ぶことができないから、その責任がない、と考えられているためです(説得力があるかどうかは別としてこのような説明がされています。)。
もっとも、正規の店舗でのサービスではなく、店外で接触し、行為に及んでいた、という場合には、元々が風俗の客との関係であったとしても、当然、不貞行為になり、この場合は相手方にも慰謝料請求の可能性があります。
さいごに
夫の風俗通いは法律上の不貞行為として認められる可能性があり、慰謝料請求や離婚理由となり得ます。ただし一般的な不倫より慰謝料額や、離婚に対する評価としては軽くなされる傾向にあります。頻繁に通っている、長期間継続している、多額の出費、家庭への悪影響などの事情があれば、より重く評価され離婚や相応の慰謝料が認められる可能性が高まります。
ただ、一般的な不倫でも、風俗店通いのいずれの場合でも、法的に「不貞行為に該当するのか」「慰謝料額はどれくらいか」は正直なところケースバイケースで、判断が難しい面があります。
そのため、早めに弁護士に相談することをおすすめしています。弊所でも不倫・不貞行為に関するご相談を受け付けており、現在の具体的な状況に基づいてどのような対応を取るべきか、弁護士が最適なアドバイスをおこなっています。
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