
本記事の監修弁護士:大平 修司
2010年12月弁護士登録。都内の事務所に勤務し、金融規制対応その他の企業法務や多くの訴訟・紛争対応に従事。
2016年4月に株式会社TBSテレビ入社。テレビ、インターネット配信、映画、スポーツ、eスポーツなど幅広いエンタテインメントについて、契約法務や訴訟・紛争対応や、インターネットビジネス、パーソナルデータの取扱いに関する業務等を担当。
2021年ライトプレイス法律事務所共同設立。
1.はじめに ― 「遺産使い込み」トラブル
相続において「兄弟の一人が親の預金を勝手に引き出していた」「知らない間に不動産が売却されていた」といったご相談は、決して珍しいものではありません。
家庭内の信頼関係があるからこそ、明確な記録を残さず財産を動かしてしまうことが多く、結果として後に「使い込み」「横領」などの疑念が生じるケースが増加しています。相続財産を不正に処分された場合、他の相続人はその財産を法的に取り戻すことが可能です。
本稿では、相続人の一部による遺産の使い込みが疑われる場合に、どのような手段を取ることができるのかを、法律の観点からわかりやすくご説明いたします。
2.相続財産の「使い込み」とは
被相続人(亡くなった方)の財産を、相続人の一部が他の相続人に無断で自己の利益のために着服したり消費したりすることがあります。このような行為を「使い込み」ということがあります。
- 被相続人の預金口座から多額の出金があり、その資金が兄弟の生活費や投資に使われていた。
- 被相続人の不動産を無断で売却し、売却代金を自己の口座に入れていた。
- 被相続人の死亡直前に保険解約や口座振替を行い、現金を移動させていた。
このような行為があると、他の相続人の取り分が実質的に減ってしまうため、法的に問題となる可能性が高いといえます。
3.遺産の使い込みを発見したら ― まず行うべき初動対応
(1)証拠を確保する
最初に行うべきは、使い込みの事実を裏づける資料を確保することです。
預貯金口座の出金記録や送金明細、被相続人の介護・入院記録などを収集し、「被相続人本人が自ら行った出金なのか」「他の相続人が引き出したのか」を整理し、証拠となるものを確保します。
弁護士であれば、必要に応じて弁護士法23条に基づく照会手続きを行い、銀行・保険会社などの金融機関やその他の関係機関から正式な記録を取得することも可能です。
(2)当事者同士での話し合いの注意点
「家族の問題だからまずは話し合いで」と考える方も少なくありませんが、感情的な対立を深めてしまうケースも多く見られます。また、法的な手段を取る前に紛争化すると、財産を隠されるなどして回収が難しくなるケースもあります。
使い込みが疑われる場合は法的な紛争に発展する可能性が高いので、それを見越して、早い段階で専門家に相談して進めることが、解決への近道となります。
4.法的に取り戻すための主な手段
(1)遺産分割外で取り戻す方法
遺産分割の対象となるのは「遺産分割時」に存在する財産です。したがって遺産分割までに使い込まれてしまった財産は、原則として遺産分割の対象となりません。そのため、不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求や不法行為といった、民法が定める請求権を行使して取り戻す必要があるのが原則です。
①不法行為に基づく損害賠償請求
まず、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。
- 「故意・過失」「権利等の侵害」「損害」「因果関係」などが認められることが要件。
- 時効は「損害と加害者を知ったときから3年」、または「行為の時から20年」。
不法行為として損害賠償が認められると、返還額に加え慰謝料や遅延損害金も請求できる場合があります。
②不当利得返還請求
相続人の一人が、正当な理由なく相続財産から利益を得た場合には、他の相続人はその利益の返還を求めることができます。
- 相続人それぞれが法定相続分に応じて返還請求が可能。
- 請求できる額は不法行為で請求するより小さくなることも。
- 時効は、「知ってから5年」、「発生してから10年」で、不法行為よりも長くなることもあるので、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効にかかった後でも請求できる可能性がある。
(2)遺産分割の中で取り戻す方法
上でも書いたとおり、使い込まれた財産は原則として遺産分割の対象となりませんが、相続人全員の同意(又は使い込んだ相続人以外の全相続人の同意)があれば、使い込まれた財産を遺産として取り扱い、分割の対象に含めることが可能です。もともと判例や実務ではこのような取扱いがされていたのですが、近年の法改正によって民法に定められました。
これにより、訴訟に発展させずに解決する道も開かれています。
5.遺産の使い込み請求を進める際の注意点
(1)時効に注意
使い込みが発覚してから長期間が経過している場合、損害賠償や不当利得の請求が時効によって消滅するおそれがあります。
発覚した時点で速やかに法的手続きを検討することが重要です。
(2)使い込みの立証責任は請求する側にある
「使い込みがあった」と主張する側が、証拠を示す必要があります。証拠がなくなってしまったり隠滅される前に、早い段階で弁護士と協力し、金融機関照会や記録保全を進めていくことが不可欠です。
(3)感情的対立の悪化を防ぐ
兄弟間の相続問題は、長年の関係性が絡むため、話し合いがこじれやすい分野です。
第三者である弁護士を介在させることで、冷静に事実確認と手続きを進めることができます。
6.弁護士に依頼するメリット
- 証拠収集・資料請求を法的に行える
上でも述べたとおり、弁護士法23条照会等を通じ、金融機関や行政機関に正式な記録を求めることが可能です。 - 相手方との交渉を代理できる
感情的な衝突を避けながら、法律に基づく冷静な交渉を行えます。なお、このような紛争案件を取り扱う資格のある専門家は弁護士だけです。 - 遺産分割交渉・調停・訴訟を一貫して対応
法的手段の選択から実際の返還請求、調停・訴訟手続までワンストップでサポートします。
7.まとめ ― 早期対応が「取り戻す」鍵
相続財産の使い込みは、家庭内の信頼関係があるゆえに、発覚した時には既に証拠が失われていることも少なくありません。
しかし、法的に正しい手続きを踏めば、使い込まれた財産を取り戻すことは可能です。
重要なのは、「怪しい」と思った段階で早めに動くこと。
証拠を確保し、専門家に相談することで、トラブルの長期化や感情的な争いを防ぐことができます。
ライトプレイス法律事務所では、相続財産の使い込み・横領などの紛争解決について調査・交渉・訴訟対応まで一貫してサポートし、ご家族の大切な財産を守るため、最適な解決策をご提案いたします。
他の相続人による遺産の使い込みにお悩みの方は、早めのご相談を。
一人で抱え込まず、専門家にお話しいただくことが解決への第一歩です。
